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カリスマ英語講師として有名なイムラン・スィディキ氏。SNSや動画配信、セミナーなど、さまざまなメディアを通じた独特の英会話メソッドで高い評価を得てきました。そのイムラン氏が新たな英語教育の場としてM&Aを行ったのが小学生・中学生・高校生を対象とした「個別学習塾」で、出会いから成約までは約3カ月でした。「これまで培ってきた英会話のノウハウを学習塾業界でも広げたい」。日本における英語のあり方を変えようと奔走するイムラン氏に、塾の譲り受けを決めた背景やその先の展開まで、「M&A経営」(M&Aを経営に取り入れること)のストーリーを聞きます。(2022年1月公開)
学習塾のM&Aは、日本の英語教育を変えるための試金石

――イムラン様はカリスマ英語講師として有名ですが、経営者というもうひとつの顔もお持ちです。
イムラン 僕が経営する株式会社ブルーフレイムは、英語に関連するさまざまな事業を展開しています。英会話関連、英語教材の販売、英語オンラインのプログラム、英語コーチ・講師の育成事業、国内留学などです。コロナ前は東京・大阪・札幌などで英語セミナーも開催してきました。
――今回のM&Aでは、Bresto&Company株式会社(以下、B&C)様からフランチャイズ(FC)の個別学習塾事業(一店舗)を譲り受けました。
イムラン B&C様はいくつか事業をお持ちでしたが、主力事業注力のため事業譲渡を選ばれたようです。譲り受けたのは、生徒の習熟度や目的に合わせ一対一や一対二で対応する小中高生向けの塾です。東京の私鉄沿線駅前の好立地にあります。
――イムラン様の英語関連事業のスタートは英会話スクールでした。
イムラン 「日本の英語教育を変えたい!」と、2003年にコペル英会話教室(株式会社コペル・インターナショナル)を始めました。それから14年を経て、経営権を譲渡しました(全株式譲渡/現在は業務委託の校長として関係は継続)。譲渡の理由のひとつは、英会話スクールという形態は、大人を対象としていることが多いため、自分一人の力では、日本の「英語教育」そのものを変えるまでには至らないだろうと感じたからです。学校や学習塾などの教育機関そのものに入りこまなければ、日本における英語の位置付けは変わらないだろうと思ったのです。
そこで、地域の教育関係者に構想を持ちかけたのですが、なかなか進展しませんでした。「学校ではなく塾の方が状況をはやく変えられるのでは?」。情報を集めヒアリングをする中でそう思うようになりました。受験や英検など目的意識のはっきりした塾の方が結果を出しやすいと判断しました。
改善の余地が大きい学習塾の英語教育。これまでのやり方を変えるチャンス
――学習塾という新たな場所で、どんな「イムラン」スタイルを実行していきますか?
イムラン これまで培ってきたノウハウを学習塾業界でも広げたいですね。これまで、塾での英語教育は受験英語や学校の補習的な位置付けでした。話す英語教育にあまり力を入れてこなかったんです。しかし都立高校入試の英語スピーキング・テスト導入など、今後英語教育では英語を話すことも求められてきます。そのため、かなり改善の余地があるわけです。自分のこれまでの経験を投入して、子どもと英語の関係を変えていくつもりです。

――英会話スクールを拡張する方向性はありませんでしたか?
イムラン 英会話スクールの場合は、生徒さんのほとんどは主婦やビジネスパーソンです。大人の場合、個別に英語力を高めて目標達成に導くことはできます。ただ、学校の英語教育に参入するとなると、また別の角度から参入を計画しなくてはいけないため、英会話スクールという業態からの参入は難しいと感じていました。
――学習塾には「イムラン」の名前は冠していませんね。
イムラン FCのため、塾名は変えられません。しかも保護者のほとんどが僕のことを知りません。英会話スクールの場合は、受講者の8〜9割の方が僕のことを知って入校されますが、今回は僕の知名度は役に立ちません。しかし、今回の譲り受けはある意味、原点を見つめ直す経験になっています。結果が全てだからです。逆に結果にフォーカスできる良い機会になったと解釈しています。自分の名前で集客しても、目的からずれてしまいますからね。
ゼロからの集客は大変。M&Aで重視したのは生徒数とロケーション
――譲渡企業のB&C様からの条件は?
イムラン 塾の教室長の継続雇用以外に条件はありませんでした。元々在籍していた塾講師の方々に続けていただき、今までの業務はそのままやっていただいています。プラスアルファで英語の動画や英検面接対策を僕が担当しています。これまでの実績を塾のコンテンツとして使える部分が多いし、ノウハウも移行中です。

――M&Aサクシード上に学習塾の案件はいくつかありますが、B&C様に決めたのはなぜですか?
イムラン 他の塾もM&Aサクシード上で拝見しました。決め手はB&C代表者が知人だったこと、そして生徒数です。B&C様の塾は生徒数が40名前後で最も多くて安定していました。他は多くて20名程度でした。ゼロからの集客はかなり大変なので、集客の流れができていることを評価しました。もうひとつがロケーションです。ブルーフレイムから塾まで30分くらいで行けます。街も再開発が進行中で成長力を感じています。
コペル英会話教室を立ち上げた時は集客のためのPRを必死でやりました。ブログの流行りはじめだったので、とにかく様々なブログ・プラットフォームで書きまくりました。毎日更新で、しかも同日に4〜5本をアップしたりもしました。教室がある2階のガラス窓に大きく「コペル英会話」と貼り出したり、看板下に小冊子を入れて取ってもらったり、若かったのでやれることは何でもやりました。今それをやれと言われたらきついですね(笑)。
――イムラン様は以前、監査法人に在籍されていました。その経験がM&Aで役に立ったのではないでしょうか?
イムラン 主に翻訳・通訳を担当していたので、直接数字を見る仕事ではありませんでしたが、その時の会計知識や単語などは役立ちました。幸い、今回の譲り受けは数字的にも妥当だと感じられるような内容でした。
――譲渡は経験されていますが、譲り受けは今回が初めてになります。
イムラン 思いのほかスムーズでした。実は自分が譲渡した時は3社目で決まったんです。1社目はうまく事が運ばず、2社目は調印前日にいきなり断られました。3社目でようやくスムーズに事は運んだのですが、その時と同じくらい今回の譲り受けはスムーズでした。全く滞ったり詰まったりする瞬間はありませんでした。僕からの返信が遅かったくらいです(笑)。
M&Aサクシードは、わかりやすくて勉強になる
イムラン M&Aサクシードは件数が多いので、案件を探しやすいですね。業種も様々にあり、わかりやすくて見ていて楽しいし、勉強になります。興味を持ってサイトを訪れることができる。M&Aサクシードは考える材料になっています。
M&Aサクシードから、希望内容に応じたメールが定期的に送られてきますので、必ずチェックをしています。塾の経営が落ち着けば、次のM&Aを検討しようと思っています。やはりゼロから事業を立ち上げるより、M&Aの方が優先順位は高いですね。
――今後の新規事業計画を教えてください。
イムラン インバウンドに興味があります。観光関連の事業を手がけるメリットのひとつは、生徒さんにも直接、英語を使う場を提供できることにあります。例えば「外国人にガイドができるようになる」という目標を設定して、浅草などの観光地で実践してもらう、といった内容が考えられます。M&Aサクシードでもこの方向性に通じる案件があったので、問い合わせてみました。その時は条件が折り合いませんでしたが、この先、チェックするジャンルになるだろうと思います。
もうひとつが、学習塾での英語教育についての出版です。まだ構想段階ですが、一般向けではなく、業界に向けた書籍を考えています。流れを作って、少しずつでも日本の英語教育のあり方を変えていきたいですね。
――日本の英語教育を変革するエバンジェリストとしての活動に期待しています。
イムラン 英語は、QOL(生きる上での満足度)をあげるのにコスパが高いんです。資格を取ることの大変さと比べると、その差は歴然です。ペラペラにならなくてもコミュニケーションが取れると世界がすごく広がる。仕事がよりスムーズになったり、海外でも働けるようになります。
――英語教育業界は伸びていますが、一方では競争が激しくなっています。今後に向けて、どんな戦略を描いていますか?

イムラン 広く浅くではなく「狭く深く」。それが今の僕の方針です。今受講していただいている生徒さんにフォーカスしたい。生徒さんの成長を見守る中で、こちら側の提案の内容や仕方も見えてきます。そこで僕のノウハウも研ぎ澄まされていく。新しいものも提供できるようになるでしょう。そのパイがどんどん広がっていくイメージを持っています。ノウハウを改良し、違うものを提供できないと、生徒さんとは一回の関係で終わってしまう。それでは寂しいですよね。大手の事業者は生徒数を増やすことに重点を置きますが、僕は良質の講師が良質の授業を行い、結果をしっかり出すことを選びます。そのために、講師の育成も強化します。講師や生徒さんが一緒になり英語コミュニティが生まれ、その輪が広がっていく。日本の英語にまつわる状況が変わるきっかけを作りたいですね。