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地方には優れた中小企業がたくさんあります。しかし一方では、経営者の高齢化と後継者不在が理由で、休廃業・解散する会社が急増していることも事実です。積極的に後継者を探さなかったり、第三者承継を望んでいながらも、M&Aという手段がわからずにやむなく廃業している場合も散見されます。そんな状況を好転させるのが、M&Aをとりもつ仲介者の存在です。地域に根ざした銀行やM&Aアドバイザーが、「M&Aサクシード」を活用し、譲渡希望企業の好アシストを務めています。今回のインタビューでは、愛知県内の同じ業種(商社)の間で行われた素晴らしい成功例をお伝えします。豊橋市の化学工業薬品商社である神谷薬品株式会社は、名古屋市で包装資材を扱う名弘商事株式会社とタッグを組みました(最初のやりとりから2カ月で成約)。その背景にあったのは、地域にある優良企業の意志を継いでいきたいという想いでした。神谷薬品株式会社 代表取締役社長 神谷 東樹 氏と、名弘商事株式会社 代表取締役 金刺 廣 氏に話を聞きます。(2022年1月公開)
ともに愛知県に本社を置く商社同士のM&A
――両社の事業概要を教えてください。
神谷薬品 神谷 化学工業薬品の商社である神谷薬品と、工場のメインテナンスを担う「Kamiya.eng(カミヤエンジ)」のグループ2社体制でビジネスを行っています。祖父が創業してから約70年を経ましたが、豊橋市を中心に展開しています。
名弘商事 金刺 56年前、名古屋市で父が創業しました。包装資材、梱包材料の販売と昇降機などの物流機器の販売を手がける商社で、私は2代目です。大卒で入社し、社長になって18年になります。家族経営でやってきました。
両社がM&Aを検討することになった経緯
――金刺様が第三者承継を決断した理由を教えてください。
金刺 後継者がいなかったからです。息子は弁護士になり、娘は40代続くお寺に嫁ぎました。息子が法曹の道に進みたいと決めた時点で、家族への承継は諦めました。第三者承継を前提に商売を続けてきましたが、60歳を過ぎた頃からだんだんと営業先の若い人と話が合わなくなってきたりして・・・。現在68歳なのですが、お客様にご迷惑をかけないために、70歳までには区切りをつけたいと考えていました。廃業はしたくありませんでした。何よりもお客様や仕入れ先にご迷惑をかけてしまう。私の代で会社をなくしてしまうことだけは避けたいと常々思っていました。
――譲り受け候補にどんな条件を出したのですか?
金刺 付き合いの長いお客様が多いので、譲渡後にお客様を大切にしていただけることを重視しました。うちのお客様のほとんどが愛知県の会社です。他県からも譲り受け希望のお問い合わせをいただきましたが、譲渡先企業は県内に絞りました。何かあった時にすぐにお客様の元にお伺いできる体制がないと商売として難しいからです。神谷薬品様は本社が豊橋市ですが、頻繁に社長も名古屋市にお見えになっているので、安心してお任せできます。
――梱包・包装を扱う商社の将来性は?
金刺 かつては数多くの会社が競いあっていましたが、今はだいぶ淘汰されています。しかし、工夫次第でまだまだ伸ばせる業界だと思います。うちも領域を限定せず、お客様の要望に応える形で商売の幅を広げてきました。
――神谷様は名弘商事様のどこに可能性を見出したのでしょうか。
神谷 まずは同業だということ。共通する取引先もいくつかあって、以前から知っている間柄という感じがありました。愛知県は三河と尾張の2つの地域に大別されますが、当社は豊橋を中心に東三河で長く事業を営んできました。名古屋を含む尾張が弱い。そこで、M&Aによってエリアを広げたいと考えていました。業務内容の面では、名弘商事様もメンテナンス事業をされていたので、親和性が高かったこともメリットと考えました。
M&Aは終わりではなく始まり
――交渉や引き継ぎの中で、印象に残った出来事やキーポイントは?
金刺 神谷様は意欲も行動力もある、素晴らしい青年経営者です。こういう人なら、大事なお客様にご迷惑をかけずに引き継げる。いえ、うち以上にお客様を大切にしてくれると思いました。男が男に惚れた、と言っていいでしょう。
神谷 私の考えるM&Aは終わりではなく始まりです。割り切れないことや予想した状況と違う場合もあるでしょう。しかし、トータルで見なければいけません。譲り受けた会社様との新しい関係、お客様との継続的な関係、これらの関係性を続けていくことが大事です。
――ともに商社です。ものづくりをしない分、信用が何よりも重要です。今回の譲り受けでは、目に見えない価値をどうやって評価されたのですか?
神谷 お客様との関係性でわかります。得意先から「おおー 久しぶり!」と言われるような昔からのつながりが続いていれば、大丈夫です。金刺様と得意先様に同行した時に、お客様の信頼が高いと感じました。
金刺 若い時から嘘や人を騙すことが嫌いでした。というか、できないタイプなんです。それがお客様の信頼を勝ち得たんでしょうね。
神谷 私も父から事業承継した3代目です。自分が置かれた立場の意味を考えてきました。地元で後継者がいない商社があったら、一緒になってやりたいという想いがありました。そのスタートが名弘商事様だった。本当に素晴らしいご縁でした。
地方銀行〜M&A仲介会社〜M&Aサクシードとつながっていった
――今回のM&Aでは、間をとりもつ事業者の存在が意味を持ちました。
金刺 1年ほど前(2020年秋)に、当時67歳だったのですが、長い付き合いのある銀行様から「後継者はどうされますか?」という話があって、前述の通りで「第三者承継を考えています」と伝えたところ、M&A仲介会社の株式会社フォーナレッジ様を紹介していただきました。フォーナレッジの加藤社長が当社に来てくださったり、担当者さんが丁寧にサポートしてくださったりと誠実な対応をしていただき、感謝しています。銀行からのバトンを受け取り、最後まで支援してくれました。
――自社の譲渡額を客観的に見積もるのは難しくありませんでしたか?
金刺 実のところ全くわかりませんでした。欲をかくつもりはありませんでしたので、フォーナレッジ様を信頼してお任せしました。その後、フォーナレッジ様にM&Aサクシードへの登録をしていただき、神谷薬品様との出会いが生まれました。
――M&Aサクシードの使い勝手はいかがでしたか?
神谷 中小企業のM&Aに特化されているので、使いやすいですね。先方からのレスポンスがない場合でも、M&Aサクシードの担当者が対応してくれます。ネットでイメージしがちなドライさを感じたことはありません。
――PMI(統合プロセス)は順調に進んでいますか?
神谷 互いの企業文化やお客様との取引条件などが違うので、金刺様と一緒に取り組み、すり合わせました。そこにはかなりの時間を割きました。金刺様から「何でもおっしゃってください」と胸襟を開いていただいたおかげで、うまく進んでいます。
金刺 うちはデジタル化が遅れているので、ご迷惑をおかけしている部分もあります。しかし「仕方ないよ」「私の父もアナログでしたから」と、神谷様は寛容に接してくれています。
神谷 「これは違う」と切り捨ててしまったら、何よりもお客様に迷惑をかけてしまいます。「お客様を大切に」という理念を共有していることが、様々な問題を乗り越える支えになっています。
第三者承継は世代を超えて企業がつながるチャンス
――神谷様は今後、「M&A経営」をどう展開されますか?
神谷 物流会社に強いのが名弘商事様の強みです。これまで私たちの取引先は工場が中心でした。しかし今回、物流業界という新たな市場が加わり、工場に対し脱二酸化炭素のための省エネやSDGsの新規提案ができるようになります。物流業界も自動運転などの変革を求められていますし、包装資材も再生紙へと変えていけたら脱プラスチックへと舵を切ることができます。アンテナを張ることで、新たな時代に向けた「M&A経営」(M&Aを経営に取り入れること)のビジョンが生まれるはずです。
――第三者承継を望みながらも、M&Aという手段を知らずにやむなく廃業している中小企業が増えています。
金刺 経営者が事業の先行きを素直にさらけ出せば、わかってくださる人は必ずいます。そのためにも早いうちにご縁をつくった方がいい。早くタネを蒔いて良いお相手を見つけた方がいいと思います。私もお客様に「まだできるでしょう」と言われましたが、10年後の80歳では気力が失せていると思います。2〜3年などあっという間です。60歳の頃に第三者承継を考え始めていましたが、あっという間に65歳になってしまいました。今回の件も実は2〜3年かかると思っていたのですが、意外とすぐに決まりました。銀行様やフォーナレッジ様、間に入ってくれた方々のおかげです。
――神谷様は「M&A経営」にどのような意味を見出していますか?
神谷 地域には、想いのある良い会社はまだたくさんあります。しかし廃業したら終わりです。だから第三者承継をひとつのチャンスと捉えたい。世代を超えて繋がっていく。力を合わせてやっていく。そんなやり方が評価される時代になってきました。価値観の合う会社同士が手を取り合ってお客様を支えていけるなら、まさに三方良しです。今までのことを守りながらさらに付加価値を創造していくことに、「M&A経営」の本質はあるのではないでしょうか。