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今回の成功事例のキーワードは「地方」です。地域で信頼されているのに、後継者不足によって止むを得ず廃業を迫られる小規模事業者は後を絶ちません。それは当事者だけでなく、地域の人々にとってもマイナスしかもたらさないでしょう。そんな中、解決の切り札として期待されているのが「M&A経営」です。長野でLPガス販売をメインに展開する田邊エネソシアは、2020年3月に別荘管理事業を運営するブル管理サービスを譲り受けました。地域のインフラを担う会社として新たな事業展開が必要と考え、出会ったのが、地元で長年愛されてきた会社だったのです。地域と共に歩む会社にとってM&Aがどう機能しているのか? 田邊エネソシア株式会社 取締役社長 並木 貴宏 氏に話を聞きます。(2021年8月公開)
LPガス販売と別荘管理に共通する「地域密着」の意思
――田邊エネソシア様とブル管理サービス様の事業概要を教えてください。
田邊エネソシア 並木 田邊エネソシアはLPガスや灯油販売をメインにした事業を展開しています。長野県東御市に本社を置き、30年間にわたり地域社会に密着したサービスを行ってきました。2011年からは、住宅設備機器販売・リフォーム事業にも力を入れ、現在、販売・施工実績も2,000件を超えるまでになりました。
今回、譲り受けしたブル管理サービス(以下、ブル)様は、先代のお父様が軽井沢で始められた別荘管理事業です。先代が亡くなられた際、ご子息の現社長が東京で新しい事業に集中するため、会社を譲渡することになったのです。
――事業承継問題があったということですね。
並木 ブル様の事業所は実家の敷地内にあり、数名の期間アルバイトとお母様や親戚の方が手伝って運営している会社でした。現社長は、東京で新たなビジネスを始めるため、先代社長の事業を引き受けるのは難しく感じていたようです。
――田邊エネソシア様がM&Aを検討することになった経緯を教えてください。
並木 縮小傾向にあるLPガス業界は、生き残りをかけてのM&Aが盛んです。事業を大きくするにはエリアの拡大をするしかないので、M&Aで大きくするのが一般的な戦略です。しかしながら大手会社が先んじるので中小には難しい。そういう背景もあり、弊社はガス販売以外に設備の水回り施工、上下水配管施工、リフォーム工事などに事業内容を拡張して、「お客様の生活環境の向上」に寄与する総合事業体へと新たな方向性を定めました。今回のM&Aはそのプランの一環になります。
別荘を所有するお客様に他サービスを提供することで事業拡大
――ブル様については、どのように知ったのですか?
並木 田邊ホールディングスの田邉社長と私でM&Aの情報は常にチェックしています。条件に合う会社様については、絶えず2人で話し合っています。
――別荘管理のどこに可能性を感じられたのですか?
並木 新たな事業であっても事業ベースがしっかりしていれば、営業活動で売上げを増やせる自信があります。私は2011年から田邊エネソシアを任されていますが、当時はLPガスの販売が主でした。その後、住宅設備機器の販売、水回り工事という新事業を始め、売上げを2倍にまで伸ばすことができました。ブル様についても、事業ベースがしっかりしている会社なので、譲り受けた後伸ばせるイメージができ、譲り受けることにしました。現状のビジネスでの利益は参考程度にしか見ていませんでした。
――別荘地周辺の業界はどのような状況にあるのですか?
並木 新築物件は増えています。しかし別荘管理業だけで収益を上げるのは難しいのが現状です。不動産とセットにするサービスや、弊社のようにライフラインに関わる業務、建物の修繕に関わる業務とのシナジー効果があって別荘管理業を伸ばしていけると思います。
――そうすると、今回のM&Aは時代の流れに合ったものだったと言えますね。
並木 互いに最高のタイミングだったと思います。
――具体的なシナジー効果を教えてください。
並木 ブル様と弊社は、軽井沢エリアに事業活動基盤があります。ブル様は、管理顧客が約100軒あると聞いていました。この軒数であれば、ガス提供や設備工事など他のサービス事業に広げることで大きなシナジー効果を期待できると思いました。さらに、管理事業の法人営業により、地元の別荘管理会社様から予想を超える仕事も頂きました。
成功の決め手は「同じ地域」。地方には「M&A」経営で成功するチャンスがある
――M&Aの面談ではどんな話をされたのですか?
並木 自信をもってお伝えしたことは、弊社のビジネスとそんなに変わらないので、間違いなくうまく運用できることと、(ブル様の)お客様に迷惑をかけないことの2点です。長く地元で事業をされていたので、お客様対応に細心の注意をはらうことを丁寧に話させて頂きました。同じエリアであったことの安心感とお客様対応が、おそらく一番大きかったと思います。
――譲り受け後、ブル様は田邊エネソシア様の別荘管理部門として新たな出発を迎えました。業務内容に変更はありますか?
並木 ブル様の主な業務は別荘の草刈と庭の手入れでした。現在は「田邊の別荘サポートサービス」として、その他に住宅補修、水道の開閉栓、害虫駆除、増改築など、別荘管理に必要なサービスをほぼ揃えました。もちろん得意とするガスの販売や給湯器・エアコンの設備修理も行っています。
――今回のM&A成功の決め手は「同じ地域」です。地方での「M&A経営」の可能性をどう考えますか。
並木 地方でのM&Aは、ビジネスチャンスがあると感じています。ただしスピード感をもってしっかり対応する人が地方ではまだまだ少ない印象です。例えば、軽井沢の別荘地オーナー様は依頼したらすぐに対応してもらいたいのです。当たり前のことを当たり前にやればチャンスはあります。地方はまだまだ面白いと感じています。
――今後の「M&A経営」のプランを教えてください。
並木 後は建築業の会社様とご縁があればと考えております。地元で長く建築業を営んでいて、建築実績があり、ベテランで腕の良い職人さんを抱えている建築会社様。このような条件を備えていて後継者がいない会社様に、ぜひお話を聞かせていただきたいと感じております。日々電気関係の方や職人さんにも声をかけているのですが、建築関連はどこも人手不足で・・・。M&Aサクシードを今後も活用し、そこで良いご縁を見つけたいですね。
私たちが掲げている「お客様の生活環境の向上」というビジョンは、生涯顧客価値をトータルで考えることにつながります。田邊エネソシアが住宅部門を持てば、住宅を建築して費用をいただいて終わりではなく、日々のインフラである水道、ガス、電気も合わせてサービスを提供できます。一般より安く住宅を建て、その後のサービスでお客様に長く寄り添っていく。地域で信頼される会社を目指しています。
――譲渡するかどうかお悩みの経営者も多くいらっしゃいます。
並木 会社がある程度良い状況の時に譲渡することは一つの選択肢だと思います。お金がすべてではありませんが、難しくなってからでは何も残らなくなってしまいます。自社を高値で譲渡したことが評価される東京のベンチャーのようになれば、地方の中小企業も活性化していくと思います。