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2021年の3月に実現したユーグレナとLIGUNAのM&Aは、ビジネスの領域を超えて大きなインパクトをもたらす出来事となりました。なぜならば、それは世界においてニッポンが進むべき未来「サステナブルな社会実現に向けた企業経営の転換」を先んじて形にしたものだったからです。バイオ燃料(ブランド名『サステオ(SUSTEO)』)の開発をはじめ、先進的なグリーン事業を展開するユーグレナ。大手企業にはない独創的な発想やD2Cという手法でスキンケア業界に変革をもたらした、スキンケアブランド「あきゅらいず」などを展開するLIGUNA。二社が出会ってあっという間にM&Aがまとまった背景には、企業文化における「100%の共感」があったといいます。株式会社ユーグレナ 代表取締役社長 出雲 充 氏と株式会社LIGUNA 代表 南沢 典子 氏に話を聞きます。(2021年10月公開)
(※GX:グリーントランスフォーメーション)
M&Aの出発点は「100%の共感」
――今回のM&Aはビジネスの枠を超えて大きな話題を集めました。
ユーグレナ 出雲 LIGUNAとユーグレナ、2つの会社名は音が似ていますよね。ともにラテン語から来ているからなんです。LIGUNAは「木や森」のことで、「木が集まって森になるように、一人ひとりの社員が集まってできる森のような会社」という思いが込められています。一方、ミドリムシの学名でもあるユーグレナは「美しい眼」という意味を持っています。
社名の由来は偶然ですが、ご一緒する会社や創業者について私なりに一生懸命に調べました。すると知れば知るほど、LIGUNAさんの思想や南沢さん個人のキャラクターにどんどん惹かれていくことになったのです。
「楽しく、よろしく、傍楽(はたら)いて、三方よし」。南沢さんの言葉です。傍らにいる人を楽にするために働くことを、ずっと大切にされてきたのです。ユーグレナも「人と地球を健康にする」「三方よし」を実現するためにつくった会社で、現在はユーグレナ・フィロソフィーとして「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を掲げ社内外に発信しています。そして、LIGUNAさんのビジョンが「Sustainable Wellness(持続可能な、すこやかさ)」であることを知り、両社ともに「サステナビリティ(持続可能性)」を事業理念として掲げていることに親和性を感じました。LIGUNAさんの企業哲学と南沢さんの人生に共感できた。だからこそご一緒したいと思えたのです。「100%の共感」が今回のM&Aの出発点です。
もちろん、ビジネスの点での合理的な理由はあります。しかしそれを優先させての判断なら、M&Aは実現しなかったでしょう。根っこの部分、つまり理念の共有こそが何よりも大事なのです。
M&Aサクシードでは、関心を寄せていた会社に思いがけず巡り合える
――今回のM&AでM&Aサクシードはどういう役割を果たしたのですか?
出雲 案件情報が豊富であることから、以前から活用させていただいていました。仲介会社からの紹介案件は担当者のフィルターを通すため、ある種のバイアスがかかりますが、M&Aサクシードさんはすべての掲載案件を見ることができるので、関心を寄せていた会社に思いがけず巡り合えることが多いのです。今回、偶然にもLIGUNAさんが浮上しました。M&Aサクシードさんにサポートしていただいて、とんとん拍子で進みました。本当に感謝しています。
ともに働く「仲間」と理念を共有できるか
――南沢様が企業譲渡を決断した経緯を教えてください。
LIGUNA 南沢 2017年頃、私にがんが見つかりました。「ああ、死ぬんだ」と思った時に、「会社の後継者をつくっておかないと」と考えました。社内で探しましたが、なかなか引き受け手は現れません。次善の策として私の2人の娘にも打診したのですが、彼女たちも引き継ぐ気持ちはありませんでした。そこで外部から探すという方向に切り替えたのです。
――これまでLIGUNA様はM&Aでは譲り受けする側でした。
南沢 私が40歳前後の頃、M&A仲介会社から「この会社を買いませんか?」という誘いをたくさんいただきました。これまでに17社をM&Aをしてグループに入ってもらいましたが、残ったのはそのなかで5社だけです。その経験から学んだのは、「企業理念を融合するには時間と労力がかかる」ということでした。
それから10年ほど経ち、今度は立場が変わって「事業譲渡されませんか?」という話が来るようになりました。自分が元気なうちに「どこかの企業と一緒になったほうがいい」と考えるようになっていた時期です。そんな時、FA(M&Aアドバイザー)さんから譲り受けしたい企業リストのダイレクトメールが届きました。「お話だけでも聞いてみよう」と思って連絡を取った時、最初に紹介されたのがユーグレナさんだったんです。出雲さんが私や会社についてものすごく調べたように、私もユーグレナさんを調べました。そこでたどり着いたのは、ユーグレナさんはLIGUNAと理念が同じだということでした。
どんな会社にもミッションやビジョンがあります。グループの一員になっても、その根幹の部分が違っていたら、分断が起きてしまいます。根本を共有していれば多少の違いは問題を生じさせませんが、そうでなければそれがきっかけで事態は悪化していきます。仕事のやり方、売り方、見せ方は時代によって変わるものですが、根っこの部分がしっかりしていれば、変化は共有できるし何よりも働きやすさにつながります。
――M&Aの交渉が始まる前にふたりきりでお会いになったそうですね。
南沢 出雲さんの第一印象は「なにか面白い人だな」。銀座で会食しながらだったのですが、とにかくメモ魔で食べる時もお話しする時もずっと書き続けている。診察にたとえると、患者の顔を見ないでカルテに記入し続けるお医者さんみたいな感じです(笑)。
出雲 南沢さんは仲間を非常に大切にされる方です。日本に企業は約360万社ありますが、そのなかでLIGUNAさんと出会えたことは奇跡的とも言えます。それはユーグレナも同じです。会社を立ち上げて以来、ともに働く人を「社員」と呼んだことは一度もありません。なぜならユーグレナを選んでくれた人は「仲間」であって社員ではないからです。社員や社長と呼び合う間柄では思いは伝わりません。
最大のシナジー効果は、持続可能性を牽引するデジタルとグリーン
――LIGUNA様はD2Cビジネスの領域で革新を続けてきました。
南沢 2016年に広告活動を完全にデジタル化しました。それ以前には他社の通販に同梱チラシを入れさせていただいていた時期もありましたが、2011年頃にやめました。紙の広告は結果として何トンもの廃棄量を生み出すことに気づいたからです。デジタル化することで捨てるもの、無駄をなくしたかったのです。広告のDXは無駄をなくしただけでなく、お客様とのつながりも深めました。DX以前は4割だったオンライン(ウェブ)での新規顧客獲得率が今では100%になっています。
次に変えようとしているのが配送方法です。化粧品という特性上、容器が壊れないようにしないといけないので、最小限のエコ梱包としてダンボールを使っていました。しかし1週間に1度のゴミ回収では家にたまってしまう。それで、ちょっとユニークな工夫をしてすべてが紙でできた封筒を考え出しました。今年春に配送テストでお客様にアンケートしたところ、このやり方を支持するという99パーセントの回答をいただきました。
――お客様の声を大切にされているのですね。
南沢 通販では、顔が見えないからこそお客様とのコミュニケーションが一番大切です。創業時から、品質、クリエイティブ、コミュニケーション、マーケティングを徹底的にやってきました。4つのうちどれか1つがダメでも私たちのビジネスは成立しません。
――今回のM&Aでは、デジタルとグリーンのシナジー効果が期待されます。
出雲 今後、日本企業が進むべき道はDXとGX(グリーントランスフォーメーション)です。逆に言えば、世界で日本が一番遅れているのはデジタルとグリーンだということです。平成元年には世界競争力で1位だった日本が今、トップからずるずる落ちて34位です。一人当たり労働生産性だと55位。理由は明らかでDXにおいて日本は先進国中でビリだからです。
通販業界に即してお話しすると、お客様とデジタルで直接つながった方が絶対にグリーンだし、デジタルで効率が上がると収益性も上がります。無駄なものが減り、あらゆる指標でCO₂も減りグリーンになります。
日本のEC通販ビジネスを考えると、一番遅れているのがお酒と食品の分野で、その比率は3%ほどです。次に低いのが化粧品の6%。一方、最もEC比率が高いのは事務用品ですが、それでも40%を超える程度です。これが日本のEC通販の現状です。
そんななか、LIGUNAさんはたった5年で、新規顧客獲得の100%がオンラインという凄さです。感嘆するほかありません。私が南沢さんとの初対面時にメモを取りまくったのは、LIGUNAさんの一から百までを知りたかったからです。指がちぎれるくらいに書きつけることですべてを学びたかったのです。
ニッポンのビジネスの鍵を握る「グリーンM&A」
――ユーグレナ様は先日、バイオ燃料(ブランド名、サステオ)を使用した初フライトを実現し、大きなニュースになりました。
出雲 グリーンにおいてユーグレナはその最先端であり、最大の強みになっています。例えば、今年の夏に、弊社の主力商品である化粧品容器を変更しました。サトウキビ由来樹脂を配合し、従来品と比較して最大90%の石油由来プラスチック量削減を実現しました。そうすることで、素材そのものがグリーンになる。製品の運送にバイオ燃料を用いれば、信じられないくらいグリーンになるでしょう。LIGUNAさんがさらに高い段階でグリーンになるには、グリーンテクノロジーとグリーンイノベーションが必要になるはずです。そこにユーグレナの存在意義があります。2社がともに力を合わせれば、「デジタル×グリーン」による信じられないような成果がもたらされるでしょう。
国産のバイオジェット燃料、トラックなどに使うバイオディーゼル燃料を提供できるのは私どもだけです。それを活用してほしいですし、LIGUNAさんからデジタルについて教えてほしいです。お互いにとって一番いい組み合わせになると確信しています。
――譲り受けした企業をサステナブルな会社に変革すること、または譲り受けした企業とともにサステナブルな会社を目指すことを、出雲様は「グリーンM&A」と名付けました。
出雲 世界ではDXとGXに焦点を当てたM&Aが最も成長していて、日本でもGX関連のM&Aは直近5年で約2倍になっており今後もその領域のM&Aが急速に高まることは間違いありません。LIGUNAさんとユーグレナが描くストーリーをもっと一般化していきたい。「DX×GX」は圧倒的な差別化を可能にするでしょう。当社も引き続きグリーンM&Aを積極的に検討していきます。
――後に続く企業が数多く出てきそうです。
出雲 南沢さんも私も10社以上とのM&Aを経験しました。そこで苦労したのは企業同士の根本部分での融合でした。つまり、企業間のカルチャーフィットが最も大切なのです。これこそがM&Aの要諦です。一時のごまかしは一緒になった時に感覚としてすぐにわかります。そりのあわない集団が騙し合い嘘をついて時間をともにするのは、端的に言えば不幸でしかない。「会社のデジタル比率が高まりさえすれば、企業文化などさほど重要ではないのでは?」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。しかし仲間がいて初めて会社は会社となります。カルチャーフィットに優先するようなグリーンM&AもデジタルM&Aもありません。これは強調してもしすぎることはないでしょう。