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日本の町工場の多くが抱える事業承継問題。技能承継者や慢性的な人手不足も同様に深刻です。この2つの大きな問題を「M&A経営」によって解決し、その流れを全国に展開している企業が兵庫県明石市にあります。「ニッポンのものづくりにわたしたちの力を」をスローガンに掲げる三陽工業株式会社です。これまで4件のM&A経験があり、譲り受けた工場を子会社化し、資金面や組織整備も改善、志ある若手社員を工場に異動させることで技能承継問題も克服しています。その手法を可能にしたのは「ものづくり×製造派遣」という独自の経営戦略です。2020年2月に京都の人材派遣会社を譲り受けた、三陽工業株式会社 代表取締役 井上直之氏に話を聞きます。(2021年6月公開)
M&Aによる「ものづくり×製造派遣」全国展開で事業・技能承継問題を解決
――三陽工業様は「つくる」と「派遣」が一体となった業態が特長ですが、今回のM&Aでは製造派遣会社を譲り受けました。
三陽工業 井上 三陽工業は製造派遣会社であり、ものづくり=製造業の会社です。売上構成比は、製造派遣業が8割、ものづくりが2割で、派遣の営業拠点(営業所)は23カ所、ものづくり拠点(工場)は10カ所に及びます。「ニッポンのものづくりに私たちの力を」をスローガンに、これまで世界に誇れる日本のものづくりに貢献してきました。
「ものづくり×製造派遣」による相乗効果が三陽工業の最大の強みです。派遣社員を自社の正社員とすることで、自社工場や大企業で培った技術力や組織力、行動力をお客様企業や自社工場の現場にフィードバックできるからです。
譲渡いただいたアネジス様は、製造派遣を中心に人材派遣・紹介を行ってきた会社です。所在地は京都市で、京都府のほか高槻市や枚方市など大阪東部を営業エリアとしていました。
――今のタイミングでM&Aを実施された理由を教えてください。
井上 私たちは山陽新幹線の主要駅を網羅していくイメージで、製造派遣の営業拠点を設立してきました。博多、山口、広島、岡山、神戸、滋賀、岐阜、名古屋、横浜。しかし大都市圏の大阪と京都は残っていました。できるだけ早く、その2つのエリアに営業拠点を置きたいと考えていました。
一方、アネジス様は派遣先企業様からの依頼だけでなく、新規依頼も非常に多かったのですが、対応するスタッフ確保が難しい状態にありました。無借金経営でもあり、短期で見れば何の問題もありませんでしたが、今後の事業の成長にはスケールメリットの必要性を感じられていたそうです。
業績が好調なうちに会社を譲渡するメリット
――譲渡に当たってアネジス様からはどのような要望があったのでしょうか。
井上 「働く社員、派遣社員を守ってほしい」。既存社員の継承は私たちの希望でもありました。三陽工業のスローガンである「日本の現場を元気にする」のベースにあるのは、働く人を幸せにすることです。
もうひとつは「社長自身も会社に残りたい」というものでした。社長様には三陽工業・京都営業所長になっていただきました。空白であった京都エリアをゼロからではなく始められるわけですから、共に働くのは理想の形というほかありません。
――経営状態が好調なうちに会社を譲渡するメリットを選ばれたのですね。
井上 資金繰りだけでなく人材採用や派遣社員の手配など、社長様は一人でやっているという気持ちがどこかにあったのかもしれません。しかし三陽工業にグループ入りしたことで、業種や働く場所を変えることなく、安心して力を発揮されると思います。
――アネジス様のどこに魅力を感じたのですか。
井上 京都市内に事業所があることです。製造派遣の業務内容を考えると立地が最重要です。製造派遣業界は全体で2.4兆円の規模があるのに、売り上げ5億円未満の小規模会社が8割も占めています。社員が数名の小さな会社が独力で成長するのは難しく、限界を感じる場合が少なくありません。今、製造派遣業界でM&Aが注目されている大きな理由がそこにあります。
M&Aサクシードの魅力は、いい意味で手軽なところ
――譲り受けを希望する会社が多数あった中で、三陽工業様が選ばれました。
井上 アネジス様との最終面接には三陽工業ともう1社が残りました。競争相手は業界大手でしたが、会社の規模ではなく、私たちの想い「ニッポンのものづくりに私たちの力を」にアネジス様は共感してくださったのだと思います。
――今回、初めてM&Aサクシードを利用されました。なぜM&Aサクシードだったのでしょうか。
井上 「人差し指を立てて『ビズリーチ!』」。正直申し上げますと、グループ会社のテレビCMの印象が強かったんです(笑)。そこからM&Aサクシードへとつながりました。
M&Aサクシードはいい意味で手軽なところが魅力ですね。情報も入手しやすいし、譲渡企業にもアプローチしやすい。そして何よりも手数料のリーズナブルさです。これまでに様々なM&Aの方法をとってきましたが、例えば金融機関経由だと、売買金額5000万円に対して手数料2000万円という提示もありました。「ちょっと待ってよ」と声が出そうになったほどです。
ものづくり企業を積極的にM&A、業種不問
――現在もM&Aを積極的に検討されているそうですが、希望条件をお聞かせください。
井上 M&Aで譲り受けする対象企業のひとつは、中小のいわゆる町工場です。今、日本の町工場の多くが抱える大きな問題は、後継者がいないことです。技能承継者や慢性的な人手不足も同様に深刻です。この2つの大きな問題を三陽工業はM&Aによって解決したいと考えています。
譲り受けた工場を子会社化し、三陽工業が親会社として関わることで、資金面や組織整備も改善されます。三陽工業に在籍する志ある若手社員を工場に異動させることで、技能承継問題も克服します。
一方、製造派遣事業については、立地する場所や統括するエリアを重視しています。全ての営業拠点のそばに製造拠点を置くことで相乗効果が図れるからです。
――工場といっても様々な業種がありますが、その点についてはいかがでしょうか?
井上 ものづくり企業であればその業種は問いません。製造拠点については、金属、木材、プラスチックなどどんな領域でも、工場を所有してものづくりをされている会社様に対しては興味を持たせていただきます。
三陽工業のこれまでのM&A成功例に、レーザー加工会社の譲り受けがあります。既存事業である研磨や製造派遣と直接の関係性はありませんでしたが、私たちの想いに共感していただき、譲渡していただきました。配属された自社の中核人材が現場を再出発させ、工場は成長し続けています。
三陽工業グループとして複数の業種があることは、「ものづくりの総合商社」としてお客様企業に付加価値を提供できるだけでなく、共同購入や料金交渉の点でも大きなメリットがあります。
初めてのM&Aでも、勇気を出せば案外うまくいく
――社員の定着率が業界では群を抜く高さです。
井上 製造派遣業界で暗黙の常識となっているのが、ほとんどの派遣社員が1年以内で退職してしまうことです。しかしそんな中、三陽工業は年間92%の定着率を達成しています。その点が、製造派遣部門においてお客様企業から大きな支持を得てきた大きな理由だと考えています。おかげさまで三陽工業の売り上げはこの10年で10倍へと躍進、従業員も1300名以上にまでなりました。
――M&Aを検討している経営者は増えていますが、初めの一歩を踏み出せずにいる方もまだ大勢いらっしゃいます。
井上 コロナが落ち着いたとしても、この先、世界はどうなるか誰にも見当はつきません。特に日本は高度成長期やバブル期のようなスペシャルな時代と真逆の時代を迎えるかもしれない。しかし経営者はそこで立ち止まるのではなく、前に進むことを選んだ方がいいと思うのです。勇気を出せば案外うまくいくこともあります。
三陽工業がM&Aを始めた頃は、どこにも頼らずにすべてを自分たちで行いました。右も左もわからず「デューデリジェンス(譲り受け企業の価値を調べること)って何ですか?」くらいのレベルでした。しかしそんな状態ながらも「ああM&Aってこういうことなんだ」という納得感が徐々にわいてきました。「ちょっとしたことをやってみよう」というのは三陽工業のモットーなのですが、それはM&Aの場でも然りだと感じています。