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M&Aの本当の価値は、事業を承継して成功を導けたかどうかにあります。M&Aサクシードでは、その後の歩みを追いかけ、成長ストーリーだけでなく、苦労や喜び、そして深い想いについて関係者に語っていただく機会を設けています。今回は、2021年9月にEC業務を事業譲渡した香川県高松市の「白坂花店(株式会社WhiteS)」と譲り受けたD2C・ECの総合支援企業「株式会社いつも」の「M&A その後」です。オンラインショップ(EC)が売上げの9割を占めながらも、ネット作業に時間を取られることに悩んでいた店主の白坂様。EC事業を「いつも」に譲渡し、自身は花のクリエイティブに専念することにしました。すると分業が功を奏し、長年解決できなかった閑散期の売上げが飛躍的に改善。なんと前年の2.5倍にまで急伸したのです。(2022年11月公開)
参考:前回の成功事例インタビューはこちら
閑散期の売上げが2.5倍! EC事業を任せたことで目標が明確に
――M&Aから1年。その間にエポックメイクがあったそうですね。
白坂花店 白坂 「母の日商戦、成功!」です。目標数字の120パーセントを達成してもなお余力があったほどです。たまたまではなく仕入れから計画的にできたので、ほかの場面でも役に立つと思います。母の日に続いて、閑散期の6〜8月も大きく伸びました。売上が何と2.5倍に増えました。仕入れが追いつかなかったくらいで、本当に驚きました。
「いつも」 遠藤 閑散期の伸び率は、サポートしている会社様のなかでもずば抜けていて、社内でも注目されています。伸び率2倍3倍というのは簡単なことではありません。
――M&Aによってどのように役割分担をされたのですか?
白坂 花の仕入れから、フラワーアレンジメントや花束などの商品の制作、お客様への出荷までが僕の業務です。ECでのすべての業務――ホームページの作り込みやリニューアル、広告運用、ネットでの販売までのサプライチェーン――を「いつも」さんにやっていただいています。譲渡前はそれらを僕ひとりで行っていたので、目が回るような忙しさでした。
「いつも」 矢追 花店のご支援は経験があったのですが、その多くがサイト制作や広告運用の支援にとどまっていました。しかし白坂花店さんでは、在庫管理やサプライチェーンまで踏み込んだことで大きな成功につながりました。
――分業化のどんな点にメリットを感じていらっしゃいますか?
白坂 商品のクリエイティブに専念できたことが何より大きいです。分業で目的や目標が明確になりました。M&Aの検討時は悩んだこともありましたが、いざビジネスが始まると想像以上に順調に進みました。
町の花店のスケールを超えた販売経路・流通開拓も視野に
――「いつも」様は「白坂花店さんに伸び代を感じ」、M&Aサクシードでお声がけされました。
遠藤 伸び代のひとつは広告です。大きな改善ができました。ACoS(広告費売上高比率)はビフォーアフターで-5.7%ほど改善しました。当社の知見を活用してより効率的になりました。その結果をページ制作にも反映させました。(注:ACoSは、割合が低いほど、効率よく商品の売上げが伸びていることを意味します)
例えば商品ページでは、ネットで売れるために必要な情報やキーワードを盛り込みました。これまでネットで販売する際にお客様に伝えるべきだったものができていなかった。それらを魅力や特徴として知ってもらうことで、商品をお客様に買ってもらいやすくしました。
潜在ニーズの掘り起こしも行いました。ネット検索で取りこぼしていたキーワードを摘出し、新しいお客さまの獲得につなげました。ネットの特性を熟知している「いつも」だからできたことだと思います。
ECではわかりやすさが求められます。母の日のために新たに開発したこの商品も「360度どこから見ても素敵に感じられる」というコンセプトです。「[白坂花店] 360°まんまるフラワーアレンジメント (正午までのご注文で当日発送可能) ギフト アレンジメント お花」という商品タイトルでも魅力や特徴を表現しています。
――花は季節性の高い商品です。閑散期は悩みの種だったのでは?
矢追 生モノなので、どうしても生産のところに制約がかかってしまいます。花の販売ではピークよりも閑散期対策が最優先のテーマです。例えば牛乳の場合、余剰をチーズなどの加工製品にして調整しますが、花の場合も閑散期に日持ちするような商品を開発することを考えています。
D2Cだから機動的に価格や数量を設定できる
――事業の継続や成長ができて初めて、M&Aの意味が浮上してきます。
矢追 白坂さんとうまくやってこられた理由のひとつは、二人三脚の距離感が絶妙だったことです。M&Aで事業譲渡して終わりではなくて、そこからが本当の意味でのスタートだったわけです。
――良い関係を結ぶために心がけていることは?
遠藤 チャットワークというツールで日々コミュニケーションをとっています。商品開発など新たにチャレンジする場合は、Zoomでのオンラインミーティングでニュアンスも共有しています。様々な手段を使って密に連絡し合っているので、仕事だけではなくいろいろな話ができる関係性を築けていますね。
白坂 最初は、事業譲渡で下請けのような関係になるのではと危惧していたのですが、そんなことはまったくありませんでした。ビジネスパートナーとして対等に接していただいています。
矢追 前回は私が高松にお伺いしましたが、今回は白坂さんに東京に来ていただきました。お会いした際には、食事もご一緒しています。コロナが終息すれば、このような機会はもっと増えると思います。やはりオフラインで会議することで生まれてくるアイデアなどもあり、お互い良い刺激を受けていると思います。
――商品を企画する際にはどんなやりとりをされているのですか?
遠藤 白坂さんからご提案いただくことが主ですが、私たちから「こういったものはどうですか?」と提案する場合もあります。
白坂 提案に対しては互いに意見を交わしています。一方通行というのはありません。僕の方で経験上難しいと感じた場合は「それでは利益が出ないですね」といった率直な判断をお伝えしています。
――売上げが好調ということから、日常業務にも余裕が生まれたそうですね。
白坂 できた時間を活用して市場(花き卸売市場)に通っています。これまでは「相対(あいたい)」(あらかじめ予約して定価購入すること)だったのですが、現場の競りで買うようになりました。実物を見られるのでより良い花を仕入れられますし、コストパフォーマンスも上がりました。現場の空気に触れることで制作にもいい影響があります。他の花屋さんとも会話が弾み、業界の見識をさらに広げているところです。
――D2C(製造者がダイレクトに消費者と取引をする)のメリットはいくつもあると思いますが、白坂花店様ではどういった点をあげられますか?
矢追 このところの国際情勢で、輸入品の花の仕入れ価格は上がっており、それにつられて国内の花の仕入れ価格も上がりつつあります。販売価格をどうするかは、花店に限らず多くの事業者の悩みどころです。値上げするべきか、現在の価格を維持すべきか。その時、卸しつまりB2Bだと、販売先と交渉しなければならないので、価格の変更は難しくなります。しかし、私たちはD2Cなので、販売価格を自分たちで調整することができます。これは非常に大きなメリットと言えるでしょう。「いつも」が培ってきたEC分野でのノウハウでこの先の経済動向に俊敏に対応していきたいですね。
M&Aから1年。周囲の反応は・・・
――M&A成約時には、お付き合いのある士業の皆さんから将来を危ぶむ声が上がったそうですが、いまはどうおっしゃっていますか?
白坂 「白坂さんが正しかったね!」と言ってくれています。花屋業界の仲間からも興味を持って、声をかけてもらっています。
――「いつも」様の今後のM&Aの方向性を教えてください。
矢追 走りながら考えているところです。白坂花店さんのようにサプライチェーンを含めてEC事業を支援するパターンもありますし、より規模の大きな事業者様のM&Aも積極的に行っていきたいです。グループイン頂いた大規模事業者様が小さな規模の事業者様のM&Aを行い、重層的にいつもグループが拡大していく構造が作りたいと考えています。いつも.流の「M&Aの輪を広げる」という発想です。M&Aサクシードでいい出会いがあることを期待しています。
――手を取り合い「白坂花店」様を運営して1年。名前を共有する想いを教えてください。
遠藤 小さい頃になりたかった職業の1つが、花屋さんでした。実際に学生の頃、アルバイトでお花の販売事業に取り組んでいた経験があります。ECという形ですが、今それが叶い、喜びを抱きながら仕事にあたっています。
白坂 「白坂花店」は自分の苗字が入ったブランドです。ECで花が売れると、僕の名前も売れるので、やる気が出ます。白坂花店は町の花屋でしかありませんが、「いつも」さんと一緒なら、その枠を超えることができます。もっともっと挑戦していきたいですね。