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自動車産業はいま、100年に一度の大変革期を迎えています。電気自動車(EV)へのシフトは特に、自動車部品メーカーに変身を迫っています。EVでは素材が樹脂(プラスチック)中心になるからです。この新たな状況を前にして、M&Aが大きな役割を果たしています。約70年の間、自動車部品メーカーとして安定した経営を続けてきた国分プレス工業株式会社は、2020年にM&Aサクシードを通じて2社の譲り受けを行いました。譲渡したのは樹脂関連の加工会社と金属加工会社です。自動車部品メーカーの事業構造シフトをM&Aがいかに効果的になし得たのか?国分プレス工業株式会社 代表取締役社長 国分 秀俊 氏に話を聞きます。(2022年9月公開)
安定した経営のなか、M&Aを事業成長戦略に
――国分プレス工業様の事業概要を教えてください。
国分プレス工業 国分 約70年の間、自動車部品メーカーとして事業運営してきました。自動車に搭載されるガソリンの給油口部品や、エンジン・足回り・車軸などに使われる中小プレス部品を設計・製造しています。プレス加工のために必要な金型の製作から組み立て、表面処理まで一貫して手掛けています。
創業当初から本田技研工業様とお付き合いさせていただき、売上げの9割を占めています。そのおかげもあり、完全無借金という安定した経営を続けてきました。
事業成長の一環として、複数件のM&Aによる譲り受けを行ってきました。グループとしては、国内に5つの子会社、海外にも2社という体制になります。M&Aは今後もしていきたいと考えています。
――国分様は3代にわたるオーナー社長です。
国分 2012年に30歳で戻ってきて、祖父が創業した会社を父から引き継いだのが2020年。社長業自体は子会社で経験していましたが、本社の経営に関わるようになったのは2012年からです。
M&Aで顧客価値と人材価値を向上させる
――2017年から約5年間で、5社の譲り受けをされました。
国分 これまで安定した経営状況で、ある意味、安心してビジネスをやらせていただいていました。しかし、自動車業界に到来した「大変革の波」を前に、経営者としての不安がありました。「プレス一本でやっていけるのだろうか?」「樹脂なのか? それともまったく違う素材が求められるのか?」「今後ずっと成長し続けられるだろうか?」・・・。不安要素は増えることはあっても減ることはありません。これらのリスクを分散させることをひとつの目的として、M&Aを経営に取り込むことにしました。
――2020年には、M&Aサクシードを通じて2社のM&Aを実施されました。
国分 当グループでは「3つの資産」という考えで会社の価値を位置付けています。3つの資産とは「顧客価値(どんなお客様を持っているか)」「人材価値(社内の人材)」「資本価値(財務状態)」です。
新しい時代を迎えるにあたって手を打つべきは、顧客価値と人材価値を上げることだと考えています。この2つの価値を向上させていくために、M&Aを行っています。資金は減りますが、財務状態は問題ありませんので、バランスをとりながら積極策を打ち出しています。
――M&Aサクシードを通じて譲り受けた2社ですが、どういう観点からタッグを組もうと考えたのですか。
国分 自動車業界の変革で最も大きいと考えられているのが、EV(電気自動車)です。EVでは軽量化のため樹脂(プラスチック)が多用されます。そのため樹脂まわりを得意とするメーカーとご一緒できればと考えました。
モールドバンク国分株式会社(旧永井プラスチック工業株式会社)のメイン事業は自動車部品関係やOA機器部品等の樹脂まわりです。M&Aサクシードで詳細を確認したところ、自動車用の部品も作ることができそうでしたので、すぐにメッセージを送りました。魅力を感じた点はもうひとつあります。それは大手の電機メーカーを得意先に持っていたことです。リスク分散や事業拡大という点では、自動車とは異なる業界とも接点を持っておきたい。その部分も考慮しました。
東栄化成株式会社三春工場(旧大島工業株式会社)はうちと同様に金属加工を主業務としていますが、自動車とはあまり関連がない分野でした。しかしお得意様に大手光学メーカーを持っていたので、うちの顧客層とは異なるところが魅力でした。2社ともに顧客価値や人材価値に寄与してくれる、という判断です。
――グループ入りした後、2社の社員の反応は?
国分 経営が厳しい状況も経験されていたので、本田技研様とがっちり組んでいる当社がオーナーになったことで、皆さん安心されたようです。
M&Aには「経験を買う」意味もある
――トップ面談ではどんな会話を?
国分 まずは「新しいお客様、新しい人材を交流していきましょう!」でした。ビジネスの実際面では、クロスセル(合わせ売り)のことや、業務が交わる案件では、外出しをせずグループ内で対応しよう、といったことを話しました。
――モールドバンク国分様には、旧経営者様も引き続き在籍されているそうですね。
国分 M&A後、旧永井プラスチック工業の社長には事業部長を任せています。これまでの経営の苦労談を聞く機会もあり、非常に勉強になります。私たちの領域外であった樹脂についてわからないことがあれば、モールドバンク国分に聞けばいいので、とても助かっています。
――約2年の成果のほどはいかがですか?
国分 ようやくクロスセルができ始めています。お客様ありきですので、なかなか想定どおりにはいきません。点数でいえば現状では60〜70点といったところですね。
1社はもともと業績も悪くなかったので、継続業務に加えてグループ内の仕事もこなせています。しかしもう1社は赤字からのスタートだったため、立て直しに時間がかかりました。このところやっとトントンになって、ようやく飛躍できる状態になりました。
――PMI(統合プロセス)で予想外のことも多いと思います。
国分 私はオーナー社長としてこれから何十年も会社を経営していくことになります。M&Aは単に会社や事業を譲り受けるというだけでなく、私にとって「経験を買う」という意味もあると思っています。そこで得た無形の財産が10年後20年後に生きてくるはずです。すぐに儲けを出すことを優先するのではなく、どっしりと構えたい。経営は短期的に一喜一憂するものではありません。
M&Aサクシードの最大の魅力は、「こちらから探しに行ける」こと
――国分プレス工業様はM&Aサクシードを通じて、これまでに70社以上の譲渡希望企業から御社に興味があると提案を受けています。M&Aサクシードを活用するメリットはどういった場面で感じられますか?
国分 M&Aサクシードの最大のメリットは「こちらから探しに行ける」ことだと思います。自分の気になる会社に直接、リクエストメールを送れるのは本当にありがたいですね。M&Aマッチングサイトでは一番使いやすいです。
――譲渡企業様を探すときのスタンスを教えてください。掲載された案件から事業の着想を膨らませることはありますか?
国分 基本的には、既に描いているビジョンをもとに確認しています。ただ、案件をざっと見ていく中で、ユニークな会社を見つけることもあります。世の中のビジネスの状況を垣間見られるのもM&Aサクシードのいいところです。
――先日、IoTをテーマにしたセミナーに講師として出られていました。最先端テクノロジー分野でもM&Aをお考えですか。
国分 そうですね。3Dプリンターを扱うベンチャー企業と話をしたことはあります。生産性の向上という点では、新しい技術をお持ちの会社も検討していきたいですね。
譲り受けする会社は「最後のお客様」
――日本の自動車産業はどう変わっていくのでしょうか?
国分 ヨーロッパは政策的・戦略的にEVのみですが、日本では電気とガソリンのハイブリットがしばらく続くでしょう。EVに特化してしまうとかなりリスクがあるとも思います。しかし、誰にも簡単に予想はつきません。
――国分プレス工業様はM&Aで鉄と樹脂の2つを持ったことになります。
国分 それだけでは十分ではありません。仮にEVが主流になったとすると、樹脂の需要が増えます。しかし、このところの国際情勢では原料高騰の可能性もあります。一方、原料として安いのは鉄です。取り巻く状況を把握しながら、あらゆる場面に対応することが求められるでしょう。
――変革の波を乗り越えるために「M&A経営」の重要性は増すでしょうか?
国分 日本の自動車産業は市場が成熟しているので、部品関連の会社間のシェア争いではさほど大きな変動はありません。売上げを大きく伸ばすためには、異業種への参入など、これまでとは違った展開をする必要があります。M&Aはそのための大きな助けとなるはずです。
――譲渡を検討されている経営者に向けてメッセージをいただけますか。
国分 譲り受けする会社を「最後のお客様」と考えられてはいかがでしょうか。どんな業種でもお客様に製品やサービスを買っていただくことが仕事です。その意味では、会社の譲渡も同じです。これまでやってこられた商売の最後の大仕事として、会社や事業の譲渡を考える。そうすると誰に譲り渡したいか自ずと視点は定まってくると思います。