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M&A業界でも注目業種として需要が引も切らないのがSES(システムエンジニアリングサービス)関連です。DXへの取り組みが叫ばれる中、ITエンジニアの獲得がその成功の鍵を握っているからです。高い能力をもつエンジニアを早期に確保して事業のスピードアップを図りたい、しかし慢性的な人材不足は変わらない――。その問題を解決するのがM&Aです。多くのシステムエンジニアを擁する株式会社Luxyはコロナ禍で経営のあり方を再考するなか、安定性を求め、株式譲渡による大手企業へのグループ入りという選択をします。譲り受けたのは、難関資格予備校をメインに様々な教育事業を展開する株式会社アガルート。講座のオンライン化により業界に新風を巻き起こしたイノベーターです。数多くの企業から交渉依頼が殺到したLuxyはなぜ、アガルートとのタッグを選んだのでしょうか? 成約から約1年半が経ち、譲渡のメリットやPMI(統合プロセス)の舞台裏、そして経営者の思いを振り返っていただきました。株式会社Luxy 代表取締役 佐藤 皓紀 氏と株式会社 アガルート 取締役 岩瀬 武 氏に話を聞きます。(2022年6月公開)
SES企業と教育業界イノベーターのタッグ
――Luxy 様は2021年2月、アガルート様に全株式を譲渡し、完全子会社となりました。
Luxy 佐藤 アガルートにジョインする前のメイン事業はほぼSESでした。エンジニアのメンバーは経験者のみでしたので、高いレベルの仕事が評価を得てきたと思います。現在のメンバー数は40名ほどで、そのうち正社員は14名です。個人事業主として所属している人も多く、会社としてはメンバーの希望に合わせ働きやすい方を選んでもらう方針です。
メンバーが集まって、頻繁に社内で交流会を催しています。その様子を広報したところ、テレビで取り上げられたこともあり、「楽しい会社」というイメージがついたように思います。
アガルート 岩瀬 2013年に難関資格予備校「アガルートアカデミー」を主軸に創業、講座のオンライン化によって飛躍的に成長しました。現在、行政書士、社会保険労務士などへと領域を広げ、難関資格試験における国内最大級のオンライン講座となりました。
資格取得学校(予備校)業界はこれまで、「大きい教室を持っている」「お客様を大勢入れる」という“大箱”に価値を置いていました。当社によるオンライン化はそんな業界に大きな変革をもたらしました。高品質なコンテンツを安く、スケジュールもフレキシブルに利用しやすくする。その結果、合格率の向上につながる。オンライン化している競合他社はありますが、当社の強みは他では真似のできない「クオリティ」にあります。
売上げは毎年200%前後で成長しています。高い成長率を達成している理由のひとつは、社員の定着にあります。離職率は5%未満。現在の正社員は約80人ですが、当社を選んでくれている背景には、自由を重んじる社風があると考えています。フルフレックスやリモートワークの推奨は当然として、何よりも多様性を認めています。親睦の飲み会や忘年会もありますが、そこに社長が出てこないくらいすべて任意出席です。どんな属性の人もどんなライフスタイルの人も違和感を感じないように、誰もが働きやすい環境づくりに配慮しています。
コロナ禍でひとつの事業に依存する不安。M&Aで突破口を見出す
――Luxy 様がM&Aを決断した背景を教えてください。
佐藤 コロナの影響で2020年にいくつかの案件を失注してしまったタイミングがありました。それでも黒字ではあったのですが、先が見えない状態のなか、SES事業だけに依存していて大丈夫かという不安が首をもたげてきました。メンバーのためにより良い選択は何なのか。総合的に考え抜いて出した結果が「どこか安定した自社サービスを持っている会社と一緒になること」でした。
――コロナ禍が精神的に重くのしかかったのでしょうか?
佐藤 僕自身は楽観的なので、「今の仕事がなくなればエンジニアとしてどこかに就職すればいい」という感じでした。しかし、メンバーの仕事をなくす訳にはいかないという責任感は強くありました。
――アガルート様は2020年以降、M&Aを積極的に行っています。Luxy 様のM&Aでは、どんなことを意識されましたか?
岩瀬 オンライン予備校といっても、社内にはエンジニアがおらず、ほとんどが外注でした。システム開発力がないことが、当社のアキレス腱だったのです。その状況を変えるためにM&Aを選びました。
今回のM&Aで私たちが重視したのは、第一に「開発力があるシステム会社」、第二に「誠実な経営者」。今回、順調に話が進んだのは、佐藤さんの人柄に私たちが惚れたからです。「株を売却したら後はどうでもいい」という自己本位の経営者ではなく、ウェットな部分も含めて人柄がしっかりしている経営者とM&Aの後も協業したいと考えていました。
――岩瀬様は弁護士、代表取締役の岩崎様も司法試験合格者でもあります。理詰めで物事を進めるクールなイメージがあります。M&Aにおいて「人柄」を重視するとは意外でした。
岩瀬 どちらかというと、弁護士ならではの視点かもしれませんね。人は理屈のみでは動かないということを経験上知っていますので、さまざまな事象において人間性は大切だと感じています。M&A後に譲渡企業の従業員が辞めてしまったという話も聞きます。私たちは、こちらの意見ばかりを押し付けたり、注文を付けたりするのではなく、自由な雰囲気のなかでグループインしてもらうというスタンスですので、一緒に成長していきたいと思える経営者かという点は最も重視していることの一つです。
交渉で重視したのは「企業文化」
――Luxy 様には交渉リクエストが16件もありました。人気の理由はどこにあったとお考えですか?
佐藤 今、エンジニアはどこも不足しています。大手に取られてしまわないうちに手を挙げてくれた会社様が多かったのでは。うちは経験を積んだ者が多いという点が評価されたのかもしれません。
――譲渡先の重視項目として「企業文化」を挙げられました。
佐藤 社風がガラッと変わると離れてしまうメンバーもいるのではないかと危惧していました。今すごく自由にさせてもらっています。アガルートへのグループインは正解でした。
岩瀬さんや岩崎さんと初めてお会いした時は、実はアガルートさんと一緒になった後のイメージがピンときませんでした。二度目の面談で、先にグループにジョインした子会社の社長も同席されていたんです。言葉を交わす中で、自由にのびのびとやられていることが感じ取れました。それが決断の後押しとなりました。
――一緒になって1年数ヶ月が経ちました。ビフォーアフターでどう変わりましたか?
佐藤 組織としての充実ですね。SES事業だけだったものが、グループ向けの開発チームもでき、事業の柱が二つになりました。安定部門があることで若手を採用して育てられるようになります。エンジニアが採用しづらくなっているなかで、教育という土台ができたことはうれしいです。
これまで開発プロジェクトのほぼすべてを、僕が取りまとめていました。でも今では、他のメンバーが音頭をとるようになりつつあります。次のリーダー候補です。これもM&Aの大きな成果と言えると思います。
――これまでを振り返って、このM&Aで苦労したことや印象に残ったことがあれば教えてください。
佐藤 苦労はあまり浮かばないですね。岩瀬さん、思い出すことはありますか?
岩瀬 グループインしてすぐ、佐藤さんから人事制度を作りたいという相談をもらいました。これまで制度化できていなかった福利厚生なども気になっているとのことでした。そのような相談をフランクにやり取りする関係性です。ただ、それも苦労したという感じではなく、一緒に楽しくディスカッションしたという記憶です。
「新聞を読むように、ほぼ毎日M&Aサクシードを見ています」(岩瀬様)
――2018年からM&Aサクシードをご利用いただいています。どんなところにメリットをお感じでしょうか?
岩瀬 質・数ともに案件が充実している点ですね。本件以外でも、M&Aサクシードを通じてジョインしていただいた会社もあります。様々なM&Aプラットフォームをチェックしていますが、M&Aサクシードは気になる案件がタイミングよく出てきます。
――「M&Aの最新の概況がわかる」と言う経営者もいらっしゃいます。
岩瀬 コロナ禍で通学系学習塾はかなりの案件が公開されていました。エンジニアを多く抱えるIT企業は年を追って価格が高くなっているなとか、時代の需給バランスをリアルに感じます。ほぼ毎日M&Aサクシードを見ています。新聞を読むような感覚かもしれませんね。
教育事業で日本の社会インフラに。「M&A経営」で企業グループを堅実に強くする
――「(M&A戦略で)イメージをしているのは、(70超の高級ブランドを擁する)LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)グループ」と岩崎社長がおっしゃっていました。
岩瀬 最高級のクオリティやコンテンツにこだわること、複数の教育や知見のノウハウを提供できるグループであること――そういう意味での発言だと思います。私たちの究極の目標は「何かを学びたいならアガルートに行けばいい」と認めていただけるようになることです。
――「M&A経営」を推進する理由を教えてください。
岩瀬 二つあります。ひとつは「時間を買う」。そして「時間をかけてもなんともならないものを買う」。私たちは掛け算ではなく足し算――弱いところを相互に補って堅実に強くなる――の発想で、グループ化を進めてきました。シナジー効果はあったらラッキーというくらいの認識です。
――グループの成長において、M&Aは今後も重要な役割を担いそうですね。
岩瀬 まだ手が届いていない分野、例えば建築士の国家試験対策などの理系の資格を扱っている予備校はぜひ新規のM&Aを検討したいですね。もうひとつはB2Bビジネスの会社。予備校事業のコンテンツは企業研修などにも転用できます。そのための人材やノウハウを得るためにM&Aを考えています。また、子会社が増えると、バックオフィスやシステムエンジニアなどの社内インフラを強化しなければなりません。そのような会社様ともご縁を探しています。
――M&Aは「新たな出会い」という言葉に置き換えられます。佐藤様にとってそれは何をもたらしたのでしょうか?
佐藤 大きな話ですが、やがて太陽は燃え尽きてしまいます。人類は地球外に生きる場を求めなくてはならない。人類が存続するためにほんの少しでも力になりたいというのが、僕の本望です。人類が培ってきた科学や思想を未来に繋いでいく、その原点にあるのは「教育」です。今回アガルートにジョインして、教育のプラットフォームづくりに携わることができました。アガルートと出会ったことで経営者視点だけでなく、個人的にもやりがいを感じています。この仕事をなんとか成功させたい、本気でやり続けたいと思っています。