





「同業のパッケージソフト開発会社が、いくらでM&Aされたのか」気になったことはありませんか。
パッケージソフト開発会社の評価は、売上高だけでは決まりません。利益、人材の定着、事業の独自性や強み、顧客との契約継続性、そして買い手とのシナジーで変わってきます。同じ売上規模でも、評価が数倍違うことは珍しくありません。
この記事は、売却をすすめるものではありません。会社を続ける・伸ばす・いつか譲る、どの選択肢を考えるにしても、まず「自社が市場でどう見られているか」を知っておくことには意味があります。公開されているM&A成約事例と、M&Aサクシードのプラットフォームに届いた実際のオファーデータをもとに、その見方を解説します。
パッケージソフト開発(ソフトウェアメーカー)の相場は、①公開されている成約事例での価格水準、②買い手が実際に使う値付け方法、③1社にどれだけの買い手が関心を示すかをあわせて見ると立体的に分かります。
見る視点 | わかること |
① 成約事例での価格水準 | 上場企業による買収の公開事例では、譲渡額は年商のおよそ0.6〜2.4倍前後に分布(規模が大きいほど倍率は低めの傾向) |
② 買い手の値付け方法 | オファーで最も多いのは「EBITDA3〜5倍+手元現金」 |
③ 1社あたりの関心の集まり方 | M&Aサクシードのデータでは、1案件に中央値8社の買い手がオファー |
• 譲渡理由は「事業の成長」が約44%、「自社事業の選択と集中」が約32%。後継者問題より前向きな理由も多く見られる
• 所在地は東京が約7割。買い手・売り手とも首都圏に集まりやすい傾向
• 黒字案件は約4割。先行投資で赤字のままでも成約しており、黒字であることは必須条件ではない
事業の特徴 | 年商規模 | 成約額の目安 |
クラウドサービス | 1,000万円以下 | 約545万円 |
クラウドサービス | 5,000万〜1億円 | 約1,072万円 |
IoTシステム開発 | 1,000万〜5,000万円 | 約1,500万円 |
プラットフォーム運営 | 1億〜2.5億円 | 約2,000万円 |
ITプラットフォーム | 1,000万〜5,000万円 | 約2,800万円 |
結論:パッケージソフト開発会社の価格を決める最大の要素は、単発の売上規模ではなく「継続課金収益(ARR)が積み上がっているか、解約率が低いか」です。買い手が買っているのは将来も続く収益であり、ストック収益の質がその土台だからです。
評価要素には序列があります。同じ要素でも、価格への効き方は同じではありません。
順位 | 評価要素 | 影響度 | なぜそうなるか |
1 | 継続課金収益(ARR)の厚みと解約率の低さ | ◎ 最重要 | ストック収益は買収後も収益が読める。解約率が低いほど収益の持続性が高く、価格の土台になる |
2 | 自社製品の保守・ライセンス継続収益と製品競争力 | ◎ 重要 | 自社パッケージは保守・ライセンス・バージョンアップが継続収益になる。導入社数と乗り換えの起きにくさが価格に効く |
3 | 開発・カスタマーサクセス体制が残るか | ○ | プロダクトを進化させ、顧客を維持する人材・体制が引き継げるかは買い手の安心材料になる |
4 | SaaS(クラウド・サブスク)への移行度 | ○ | 買い切り型より月額課金型のほうが収益が読めるため、SaaS化が進んでいるほど買い手の評価は高い |
— | 売上の大きさ(単体) | △ 効きにくい | 初期導入や受託の単発売上が大きくても、ストック収益が薄ければ評価は伸びない |
つまり、価格を上げたいなら順番があります。まず「継続課金収益が残る状態(低い解約率)」を作り、次に「利益と成長を示す」。単発の売上を追うのはその後です。
結論:買い手のオファーは「EBITDA × 3〜5倍 + 手元現金」に集約されます。算定方法に大きなばらつきはなく、買い手の多くが共通して利益を見ています。
M&Aサクシードのパッケージソフト開発会社関連案件に届いたオファーで、買い手が提示した算定方法を集計すると、最頻はEBITDA倍率+手元現金。残りの方法も、EBITDAか純資産を軸にした変種にすぎません。
買い手が提示する算定方法(多い順) | 位置づけ |
EBITDA × 3〜5倍 + 手元現金 | 標準形。これが基準と考えてよい |
EBITDA × 倍率(手元現金の加算なし) | 上記の変種。利益(EBITDA)を軸に評価 |
純資産 + EBITDA × 倍率 | 上記の変種。資産価値に収益力を加算 |
具体的にイメージすると
EBITDAが5,000万円なら、3〜5倍で1.5億〜2.5億円。これに手元現金を上乗せした金額が、オファーの初期レンジになります。継続課金収益の厚みや成長性は、この倍率の中で評価されます。
ここからいえることはシンプルです。価格を上げるいちばん直接的な方法は「解約率を抑えてストック収益と利益(EBITDA)を厚くし、手元現金を残しておくこと」。逆に、節税のために利益を圧縮していると、その分だけ評価も下がります。
結論:「うちのような会社に買い手なんてつくのか」という心配は、データを見ると小さいといえます。パッケージソフト開発会社関連案件には、1社あたり中央値8社の買い手がオファーを寄せています。
M&Aサクシードのパッケージソフト開発会社関連案件のデータでは、1社あたり中央値で8社、多いケースでは73社の買い手がオファーを寄せています。
1案件あたりのオファー買い手数 | 実績(M&Aサクシード) |
中央値 | 8社 |
平均 | 約10社 |
最も多かった案件 | 73社 |
複数の買い手が同時に関心を示す状況は、条件交渉でも有利に働きます。まずは「自社にどんな買い手が、何社くらい関心を持つか」を知るところからで十分です。
では、売り手側の供給はどうでしょうか。現在、M&A市場に売りに出ているパッケージソフト開発会社関連の案件は約26件で、一定の流通量がある業種です。
一方で、前述のとおり買い手の関心は厚く、1案件あたり中央値8社のオファーが集まります。案件の流通で相場観が形成されつつ、なお需要が供給を上回る売り手に追い風の市場です。相場が読みやすいうえに買い手間の競争も働くため、好条件を引き出しやすい環境といえます。
この需給の環境は、売り手にとって交渉の進め方そのものを変えます。M&Aサクシードのようなプラットフォームでは、複数の買い手が同時に案件を検討するため、比較できるオファーを同じ期間に集めやすくなります。相対で1社と向き合うのではなく、複数のオファーを並べて比較しながら進められる状態です。オファーが複数並ぶと、買い手も他社と比較されていることを前提に条件を出すため、価格だけでなく、従業員の処遇や引き継ぎ期間といった条件面でも、売り手の希望をのんでもらいやすくなります。
なお、売りに出ている案件の譲渡理由としては「事業拡大・成長戦略」が最も多く、「後継者不在」がそれに続きます。事業や業績に問題があって売りに出るケースばかりではない、という点は売り手・買い手双方にとって押さえておきたいポイントです。
実際にオファーを寄せた買い手のプロフィールを集計すると、買い手像はかなり具体的に見えてきます。
買い手の属性 | 実際の傾向 |
売上規模 | 10〜30億円が最多。100億円超の大手も約2割前後を占める |
M&A経験 | 約66%が「M&A経験あり」。買い慣れた買い手が中心 |
上場/非上場 | 非上場が約7割。東証プライム・グロース等の上場企業も約3割前後 |
エリア | 約7割が東京。大阪府・愛知県・長野県・神奈川県など地方の買い手も一定数 |
業種 | ソフトウェア・クラウド・システム開発の同業が中心。マーケティングや事業会社など隣接領域も |
結論:パッケージソフト開発会社の買い手で最も動きが早いのは、プロダクトと継続課金の顧客基盤を自社サービスに取り込みたい「同業・隣接のIT企業」です。ゼロから開発するより、動いているプロダクトを顧客ごと引き継ぐほうが早いからです。
買い手は4タイプに分かれますが、出現頻度もスピードも価格の出し方も同じではありません。実名の事例とあわせて、重みづけして見ます。
買い手タイプ | 位置づけ | 実名の例(売上規模) | 売り手から見た特徴 |
同業IT・SaaSのロールアップ型 | ◎ 主役・最速 | インフォネット(20億・複数買収) | プロダクト・顧客基盤・開発チームをまとめて取り込む。屋号・雇用が継続されやすい |
上場IT・マーケティング大手 | ○ 価格が出やすい | エイチーム(239億)/Macbee Planet(517億) | 自社の顧客基盤にプロダクトを乗せて成長を加速 |
異業種・事業会社 | ○ シナジー次第で高値 | ジェイリース(173億)/SBテクノロジー(657億) | 新しい収益の柱づくり・DX。プロダクト事業の取り込み |
投資ファンド | △ 限定的だが存在 | —(SaaS関連の買い手候補にも一定数) | 成長投資・ロールアップの起点。経営支援を受けて拡大 |
つまり「同業に安く買い叩かれるのでは」という心配は実態と逆です。同業・隣接のIT企業は、プロダクトと継続課金の顧客基盤をまとめて引き継ぎたいからこそ、体制の継続を前提に、競って手を挙げてきます。
買い手・売り手ともに公表されている成約事例です。「どんな会社が、いくらで、なぜ評価されたか」の具体像としてご覧ください。
売り手の事業 | 売り手売上 | 買い手(売上規模) | 譲渡額 | 評価の軸 |
ヘッドレスCMS「microCMS」の開発・販売 | 約2.1億 | エイチーム(239億) | 15.0億 | グループの強みであるデジタルマーケティング力を活かせるSaaSプロダクトの獲得 |
コンピュータソフトウェアの開発・販売(環境検査・見守り等の自社パッケージ製品)(エイビス) | 約17.0億 | ジェイリース(173億) | 12.3億 | 自社サービスと親和性の高い製品群と開発体制の取り込み |
システムコンサルティング・システムインテグレーション・パッケージソフト提供(電縁) | 約24.2億 | SBテクノロジー(657億) | 13.3億 | システム開発力とパッケージ製品を取り込み、事業成長を加速 |
AIマーケティングプラットフォームの運営(Alpha) | 約6.7億 | Macbee Planet(517億) | 12.0億 | 取得データの拡大・解析力の向上によるマーケティング事業の強化 |
結論:高く評価される会社と、伸びない会社を分けるのは、つきつめると一つの問い「あなたが抜けても、製品の継続収益と開発体制は残るか」です。
買い手の頭にあるのは、買収後の心配です。この心配を小さくする要素は価格を押し上げ、大きくする要素は価格を下げます。
同じ年商2億円でも、評価には差が出ます。
価格を押し上げる(買い手の不安を消す) | 価格を下げる(買い手の不安を増やす) |
◎ 保守・ライセンスの継続収益が積み上がっている | ◎ 買い切り・受託の一時売上に依存している |
◎ 製品を進化させる開発体制が代表個人に依存せず残る | ◎ 開発が特定エンジニアの頭の中にしかない |
○ 導入社数が多く、乗り換えが起きにくい | ○ 少数顧客への依存が大きい |
○ SaaS(月額課金)へ移行できている | ○ 買い切り型のみで収益が読みにくい |
○ ソースコード・権利・財務情報が整理されている | △ 権利関係や必要資料が整理されていない |
最初の2行(◎)が決定的です。「継続収益が残るか」「開発体制が残るか」この2つを整えるだけで、同じ業績でも評価は変わってきます。
※ 当社の成約事例・買い手の取得理由から見られる傾向の整理です。具体的な閾値は個社ごとに異なります。
外部の裏付けとして、登録支援機関の中小M&A実績にもとづく公的統計を参照します。パッケージソフト開発会社に近い業種を併記します。
参照業種(件数) | 指標 | 第1四分位 | 中央値 | 第3四分位 |
情報サービス業(100件) | EV/EBITDA | 4.9倍 | 9.7倍 | 17.7倍 |
情報サービス業(106件) | PER | 6.7倍 | 13.5倍 | 27.7倍 |
インターネット附随サービス業(22件) | EV/EBITDA | 4.3倍 | 10.4倍 | 18.9倍 |
インターネット附随サービス業(24件) | PER | 11.2倍 | 23.6倍 | 31.5倍 |
相場を見たら、次は「自社に実際どんなオファーが届くか」を確かめてみることもできます。
M&Aサクシードでは、相場を見たあと、気が向いたら試しにプラットフォームの会員企業からオファーを受け取ってみることができます。ここまでの相場の確認も、オファーの受け取りも、無料でご利用いただけます。
オファーを受け取るだけなら、契約は不要・決算書などの書類提出も不要・(オファー相手の企業に対して)会社名は匿名のままで利用できます。
「売却すると決めてから動く」のではなく、「オファーを見てから、どうするかを考える」という順序で進められます。
届くオファーには、「いくらで」だけでなく、次のような内容まで含めることができます。
• なぜ自社に関心があるのか(買い手の狙い・シナジー)
• 連帯保証はどうなるか
• 従業員はどうなるか(雇用の継続)
• 自分はいつまで経営に関わるか(引き継ぎ期間)
実際のオファーは、たとえば次のような形で届きます。
会社名 | 株式会社サクシードテック ※本記事用のサンプル表記 |
本社所在地 | 東京都 |
事業内容 | 首都圏を中心に事業を展開し、パッケージソフト開発会社との連携・取り込みに注力する企業。 |
売上高 / 従業員 | 100億円以上 / 1,001名以上 |
上場区分 / M&A実績 | 非上場 / 2〜5案件 |
関心を持った背景 | 弊社は人材・体制の強化を経営課題としており、貴社が強みとする領域は、まさに弊社が探し求めていた領域です。同エリアの営業・調達基盤と組み合わせることで強いシナジーが見込まれます。ぜひ早期に秘密保持契約を締結し、責任者同士の面談の機会を頂戴できれば幸いです。 |
買収金額の算定方法 | EBITDAの3〜5倍 + 手元現金(ネットキャッシュ)。対象会社の収益性をベースに株式評価。詳細はデューデリジェンスを通じて検討。 |
経営者の処遇 | 売り主様のご意向を全面的に尊重。従業員・取引先へのスムーズな承継のため、数ヶ月〜半年程度の引き継ぎ期間(顧問等)をご相談。形態は状況に合わせ柔軟に。 |
連帯保証の解除時期 | クロージング時までに金融機関と調整し、前オーナー様の連帯保証を全て解除することを前提。 |
匿名なのはあなたの会社の社名だけ。オファーを送る買い手側は、社名・所在地(都道府県)・売上規模・M&A実績まで明かしています。だから「誰が、なぜ、いくらで」を確認したうえで、進めるかどうかを判断できます。
良いオファーが届いたときだけ、ご自身の判断で次のステップに進めます。もちろん、M&Aプロセスに詳しいM&Aサクシードの担当者と一緒に進めることもできます。
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問題ありません。むしろ決める前に、同業の相場や届くオファーを見ておくことで、続ける・伸ばす・譲るという選択肢を落ち着いて考えられます。オファーを見てから、どうするかを考える順序で進められます。
可能性はあります。買い手は赤字理由、人材の定着、顧客契約、改善余地を確認します。実際に営業赤字でも買い手がついた事例があります。
年商だけで決まりません。小規模でも、利益が出ている・顧客契約が安定している・買い手にとって魅力的な人材や資産を抱えている場合は対象になります。
売上倍率だけで見るのは適切ではありません。買い手のオファーでは、利益(EBITDA)を基準に手元現金を加える形が最も多く見られます。
パッケージソフト開発会社の価格を最も左右するのは「自社製品の継続収益(保守・ライセンス)と製品競争力」、次に「開発体制の継続性とSaaS移行度」です。買い手の値付けはEBITDA3〜5倍+手元現金に集約され、IT関連案件には1社あたり中央値8社の買い手がオファーを寄せています。買い手の主役は、プロダクトと顧客をまとめて引き継ぎたい同業・隣接のIT企業です。
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