





「同業の人材派遣会社が、いくらでM&Aされたのか」気になったことはありませんか。
人材派遣会社の評価は、売上高だけでは決まりません。利益、人材の定着、事業の独自性や強み、顧客との契約継続性、そして買い手とのシナジーで変わってきます。同じ売上規模でも、評価が数倍違うことは珍しくありません。
この記事は、売却をすすめるものではありません。会社を続ける・伸ばす・いつか譲る、どの選択肢を考えるにしても、まず「自社が市場でどう見られているか」を知っておくことには意味があります。公開されているM&A成約事例と、M&Aサクシードのプラットフォームに届いた実際のオファーデータをもとに、その見方を解説します。
人材派遣会社の相場は、①公開されている成約事例での価格水準、②買い手が実際に使う値付け方法、③1社にどれだけの買い手が関心を示すかをあわせて見ると立体的に分かります。
見る視点 | わかること |
① 成約事例での価格水準 | 上場企業による買収の公開事例では、譲渡額は年商のおよそ0.3〜1.0倍に分布(労働集約型のため年商倍率は低めに出やすく、利益率や派遣先の分散が評価を左右) |
② 買い手の値付け方法 | オファーでは、EBITDA倍率(+手元現金)を軸に、純資産を加味した算定が中心 |
③ 1社あたりの関心の集まり方 | M&Aサクシードのデータでは、1案件に中央値10社の買い手がオファー |
まず、上場企業による買収のうち公開されている人材派遣会社関連(事務・製造・物流・販売などの労働者派遣、請負・職業紹介を含む)の成約事例を、売り手の年商規模別に整理しました。譲渡額そのものよりも、「年商の何倍で成約しているか」の傾向に注目してください。
売り手の年商 | 年商に対する譲渡額の倍率(中央) | 譲渡額の目安レンジ |
3〜5億円 | 約1.0倍 | 約8,000万円〜約8.5億円 |
10〜30億円 | 約0.3倍 | 約8,000万円〜約5.5億円 |
30億円〜 | 約0.3倍 | 約1.1億円〜約17.5億円 |
• 譲渡理由は「後継者不在」が約30%で最多。「事業の成長」「大手企業傘下に入りたい」「自社事業の選択と集中」が各約20%と続く
• 所在地は東京が約2割。首都圏に限らず、地方の会社にも成約実績がある
• 黒字案件は約7割。赤字でも、登録スタッフや派遣先との取引関係が評価されて買い手がつく可能性がある
事業の特徴 | 年商規模 | 成約額の目安 |
人材派遣 | 5,000万円〜1億円 | 約600万円 |
人材派遣 | 5,000万円〜1億円 | 約1,200万円 |
人材派遣 | 1億円〜2億5,000万円 | 約3,500万円 |
人材派遣 | 1億円〜2億5,000万円 | 約3,800万円 |
人材派遣 | 2億5,000万円〜5億円 | 約1億円 |
結論:人材派遣会社の価格を決める最大の要素は、売上規模ではなく「登録スタッフの稼働と定着、買収後もスタッフが働き続け、派遣先との取引が続くか」です。労働集約型の派遣業では、スタッフと派遣先の関係がそのまま事業の価値だからです。
評価要素には序列があります。同じ要素でも、価格への効き方は同じではありません。
順位 | 評価要素 | 影響度 | なぜそうなるか |
1 | スタッフの稼働と定着(稼働率・定着率・買収後もスタッフが働き続けるか) | ◎ 最重要 | スタッフ=事業の源泉。買い手が気にするのは買収後の離脱。稼働と定着の見込みが価格の土台 |
2 | 営業利益(EBITDA) | ◎ 重要 | 買い手は利益を基準に値付けしやすい。派遣単価と管理コストの差から利益が残っているほど素直に価格が上がる |
3 | 派遣先の分散度・契約の継続性 | ○ | 特定の派遣先1社に偏っていると契約終了の影響が大きく、評価を抑える。業種・企業が分散していれば売上継続リスクが下がる |
4 | 許可の維持と労務・社会保険コンプライアンス、代表非依存の管理体制 | ○ | 労働者派遣の許可要件や社会保険の適正な運用は買収の前提。労務管理が整い、代表が抜けても回る体制は評価されやすい |
— | 売上の大きさ(単体) | △ 効きにくい | 派遣業は労働集約型で年商倍率が低めに出やすい。売上が大きくても利益率が薄ければ評価は伸びない |
つまり、価格を上げたいなら順番があります。まず「スタッフが安心して働き続けられる状態」と「派遣先との安定した取引」を整え、次に利益を残す。売上を追うのはその後です。
結論:人材派遣会社へのオファーでは、算定方法を明示した買い手の多くがEBITDA倍率(+手元現金)を軸にしており、純資産を基準にする買い手も一定数います。共通して見られているのは収益力と資産です。
M&Aサクシードの人材派遣会社関連案件に届いたオファーで、買い手が提示した算定方法を集計しました。個別事情に応じた算定も多い一方、方法を明示した買い手ではEBITDAを軸にした評価が中心で、純資産を基準にした方法が続きます。
買い手が提示する算定方法(多い順) | 位置づけ |
EBITDA × 倍率(3〜5倍など) | 収益力を軸にした標準的な方法。倍率のレンジは買い手により異なる |
EBITDA × 倍率 + 手元現金(ネットキャッシュ) | 上記の変種。収益力の評価に手元現金を加味する |
純資産 + 営業利益の数年分 | 資産価値に、のれん(営業利益の数年分)を加える方法 |
時価純資産法(資産の時価評価) | 収益力よりも資産の時価を重視する方法 |
具体的にイメージすると
EBITDAが5,000万円なら、3〜5倍で1.5億〜2.5億円がひとつの目安。ここに手元現金や純資産、買い手とのシナジーが加味されて、オファーの初期レンジになります。
ここからいえることはシンプルです。価格を上げるいちばん直接的な方法は、利益(EBITDA)を厚くし、買い手が安心して引き継げる状態を作ることです。逆に、節税のために利益を圧縮していると、その分だけ評価も下がります。
結論:「うちのような派遣会社に買い手なんてつくのか」という心配は、データを見ると小さいといえます。人材派遣会社関連の案件には、1案件あたり中央値10社の買い手がオファーを寄せています。
M&Aサクシードの人材派遣会社関連案件のデータでは、1案件あたり中央値で10社、多いケースでは45社の買い手がオファーを寄せています。
1案件あたりのオファー買い手数 | 実績(M&Aサクシード) |
中央値 | 10社 |
平均 | 約12.7社 |
最も多かった案件 | 45社 |
複数の買い手が同時に関心を示す状況は、条件交渉でも有利に働きます。まずは「自社にどんな買い手が、何社くらい関心を持つか」を知るところからで十分です。
では、売り手側の供給はどうでしょうか。現在、M&A市場に売りに出ている人材派遣会社関連の案件は約94件にのぼり、業種の中でも流通量が多い部類に入ります。
これに対して買い手側も、1案件あたり中央値10社と厚いオファーを出しています。需給とも厚みのある、成熟した活発な市場です。取引事例が多く相場観は形成されていますが、そのぶん買い手の目も肥えています。自社の強みが一目で伝わる準備をした売り手が、相場の上限側で成約しています。
この需給の環境は、売り手にとって交渉の進め方そのものを変えます。M&Aサクシードのようなプラットフォームでは、複数の買い手が同時に案件を検討するため、比較できるオファーを同じ期間に集めやすくなります。オファーを1本ずつ受けて判断するのではなく、同じ期間に並べて比較できることが、交渉のしやすさに直結します。複数のオファーが集まれば、交渉の主導権は売り手側に寄ります。価格に加えて、従業員の処遇や引き継ぎ期間などの条件面でも、売り手側の意向を反映しやすくなります。
ちなみに、市場に出ている案件の譲渡理由を見ると「後継者不在」が中心で、「事業拡大・成長戦略」も一定数あります。売却は特別な事情のある会社だけのものではなくなりつつあります。
実際にオファーを寄せた買い手のプロフィールを集計すると、買い手像はかなり具体的に見えてきます。
買い手の属性 | 実際の傾向 |
売上規模 | 10〜30億円が最多(約3割)。100億円以上の大手も約2割 |
M&A経験 | 約75%が「M&A経験あり」。買い慣れた買い手が中心 |
上場/非上場 | 約8割が非上場。東証プライム・スタンダード・グロース等の上場企業も |
エリア | 約半数が東京。大阪・愛知・静岡など全国の都市圏からも |
業種 | 人材派遣・人材紹介の同業のほか、技術者派遣、BPO・アウトソーシング、人材活用・人材育成など隣接領域の事業会社が中心 |
結論:人材派遣会社の買い手で最も存在感があるのは、「登録スタッフと派遣先との取引をまとめて取り込みたい同業・隣接の人材サービス会社」です。採用難が続くいま、働き手と取引先を同時に確保できることが大きな動機だからです。
買い手は4タイプに分かれますが、出現頻度もスピードも価格の出し方も同じではありません。実名の事例とあわせて、重みづけして見ます。
買い手タイプ | 位置づけ | 実名の例(売上規模) | 売り手から見た特徴 |
同業・隣接(人材派遣・人材紹介・アウトソーシング)の事業会社 | ◎ 主役・最速 | UTグループ(約1,947億、製造業向け派遣・請負会社を連続取得) | スタッフの雇用と派遣先との取引が継続されやすく、事業を引き継ぎやすい |
上場・大手人材サービスグループ | ○ 価格が出やすい | NISSOホールディングス(約1,015億)/ウィルグループ(約1,397億) | スタッフ数・派遣先網の積み上げ。グループ会社化でエリア・職種を補完 |
異業種・事業会社(自社事業とのシナジー狙い) | ○ シナジー次第 | 鉄人化ホールディングス(約80億、イベント・販売系の派遣会社を取得) | 自社の人材確保・新規事業・顧客基盤の獲得を狙う |
投資ファンド | △ 限定的だが存在 | — | 成長投資・ロールアップの起点。経営支援を受けて拡大 |
つまり「同業に安く買われるのでは」という心配は実態と逆です。同業・隣接の買い手は、スタッフと派遣先をまとめて引き継ぎたいからこそ、雇用の継続を前提に、競って手を挙げてきます。
買い手・売り手ともに公表されている成約事例です。「どんな会社が、いくらで、なぜ評価されたか」の具体像としてご覧ください。
売り手の事業 | 売り手売上 | 買い手(売上規模) | 譲渡額 | 評価の軸 |
製造業向け請負・人材派遣事業を展開するグループの持株会社(スリーエム) | 約7.9億 | UTグループ(約1,947.5億) | 約30.5億 | 雇用情勢の変化を見据えた、製造業向け派遣・請負事業の基盤強化 |
労働者派遣・有料職業紹介・アウトソーシング事業(タイト・ワーク) | 約41.5億 | UTグループ(約1,947.5億) | 約17.5億 | 採用難が続くなかでの、製造メーカー向け派遣・請負の人材と顧客基盤の獲得 |
製造系人材派遣を中心に職業紹介・生産物流受託等を展開(Man to Manホールディングス) | 約133.3億 | NISSOホールディングス(約1,015.6億) | 約16億 | 製造系人材サービスの事業ポートフォリオの補完・強化 |
人材派遣・業務請負事業(リトルシーズサービス) | 約13.6億 | ウィルグループ(約1,397億) | 約5.5億 | 国内外で人材サービスを展開するグループの成長戦略に沿った、派遣・業務請負事業の拡大 |
結論:高く評価される会社と、伸びない会社を分けるのは、つきつめると一つの問い「あなたが手を離しても、スタッフの稼働と派遣先との取引は続くか」です。
買い手の頭にあるのは、買収後の心配です。「買った後にスタッフが離れないか」「主要な派遣先との契約が切れないか」「許可や労務管理に問題はないか」。この心配を小さくする要素は価格を押し上げ、大きくする要素は価格を下げます。
同じ年商規模でも、評価には差が出ます。
価格を押し上げる(買い手の不安を消す) | 価格を下げる(買い手の不安を増やす) |
◎ スタッフの定着率が高く、買収後も稼働が続く見込みがある | ◎ 離職・入れ替わりが多く、スタッフが残る見込みが弱い |
◎ 代表が抜けても営業・コーディネート・労務管理が回る | ◎ 代表個人に営業・スタッフ管理が集中している |
○ 派遣先が複数の業種・企業に分散している | ○ 派遣先が1社に偏り、契約終了の影響が大きい |
○ 営業利益が継続的に出ている | ○ 売上はあるが利益が薄い |
○ 派遣許可・雇用契約・社会保険などの労務関係書類が整理されている | △ 必要資料が整理されていない |
最初の2行(◎)が決定的です。「スタッフと取引が続くか」「代表に依存していないか」この2つを整えるだけで、同じ業績でも評価は変わってきます。
※ 当社の成約事例・買い手の取得理由から見られる傾向の整理です。定着率などの具体的な閾値は個社ごとに異なります。
外部の裏付けとして、登録支援機関の中小M&A実績にもとづく公的統計を参照します。人材派遣会社が含まれる「職業紹介・労働者派遣業」と、近接する「その他の事業サービス業」を併記します。
参照業種(件数) | 指標 | 第1四分位 | 中央値 | 第3四分位 |
職業紹介・労働者派遣業(30件) | EV/EBITDA | 3.5倍 | 9.4倍 | 19.6倍 |
職業紹介・労働者派遣業(32件) | PER | 8.8倍 | 15.6倍 | 35.7倍 |
その他の事業サービス業(52件) | EV/EBITDA | 3.5倍 | 8.6倍 | 20.8倍 |
その他の事業サービス業(54件) | PER | 8.3倍 | 14.2倍 | 30.6倍 |
相場を見たら、次は「自社に実際どんなオファーが届くか」を確かめてみることもできます。
M&Aサクシードでは、相場を見たあと、気が向いたら試しにプラットフォームの会員企業からオファーを受け取ってみることができます。ここまでの相場の確認も、オファーの受け取りも、無料でご利用いただけます。
オファーを受け取るだけなら、契約は不要・決算書などの書類提出も不要・(オファー相手の企業に対して)会社名は匿名のままで利用できます。
「売却すると決めてから動く」のではなく、「オファーを見てから、どうするかを考える」という順序で進められます。
届くオファーには、「いくらで」だけでなく、次のような内容まで含めることができます。
• なぜ自社に関心があるのか(買い手の狙い・シナジー)
• 連帯保証はどうなるか
• 従業員はどうなるか(雇用の継続)
• 自分はいつまで経営に関わるか(引き継ぎ期間)
実際のオファーは、たとえば次のような形で届きます。
会社名 | 株式会社サクシードテック ※本記事用のサンプル表記 |
本社所在地 | 東京都 |
事業内容 | 首都圏を中心に事業を展開し、人材派遣会社との連携・取り込みに注力する企業。 |
売上高 / 従業員 | 100億円以上 / 1,001名以上 |
上場区分 / M&A実績 | 非上場 / 2〜5案件 |
関心を持った背景 | 弊社は人材・体制の強化を経営課題としており、貴社が強みとする領域は、まさに弊社が探し求めていた領域です。同エリアの営業・調達基盤と組み合わせることで強いシナジーが見込まれます。ぜひ早期に秘密保持契約を締結し、責任者同士の面談の機会を頂戴できれば幸いです。 |
買収金額の算定方法 | EBITDA倍率(3〜5倍など) + 手元現金(ネットキャッシュ)。対象会社の収益性をベースに株式評価。詳細はデューデリジェンスを通じて検討。 |
経営者の処遇 | 売り主様のご意向を全面的に尊重。従業員・取引先へのスムーズな承継のため、数ヶ月〜半年程度の引き継ぎ期間(顧問等)をご相談。形態は状況に合わせ柔軟に。 |
連帯保証の解除時期 | クロージング時までに金融機関と調整し、前オーナー様の連帯保証を全て解除することを前提。 |
匿名なのはあなたの会社の社名だけ。オファーを送る買い手側は、社名・所在地(都道府県)・売上規模・M&A実績まで明かしています。だから「誰が、なぜ、いくらで」を確認したうえで、進めるかどうかを判断できます。
良いオファーが届いたときだけ、ご自身の判断で次のステップに進めます。もちろん、M&Aプロセスに詳しいM&Aサクシードの担当者と一緒に進めることもできます。
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売上倍率だけで見るのは適切ではありません。買い手のオファーでは、利益(EBITDA)を基準に手元現金を加える形が最も多く見られます。
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