





「同業の印刷会社が、いくらでM&Aされたのか」気になったことはありませんか。
印刷会社の評価は、売上高だけでは決まりません。利益、人材の定着、事業の独自性や強み、顧客との契約継続性、そして買い手とのシナジーで変わってきます。同じ売上規模でも、評価が数倍違うことは珍しくありません。
この記事は、売却をすすめるものではありません。会社を続ける・伸ばす・いつか譲る、どの選択肢を考えるにしても、まず「自社が市場でどう見られているか」を知っておくことには意味があります。公開されているM&A成約事例と、M&Aサクシードのプラットフォームに届いた実際のオファーデータをもとに、その見方を解説します。
印刷会社の相場は、①公開されている成約事例での価格水準、②買い手が実際に使う値付け方法、③1社にどれだけの買い手が関心を示すかをあわせて見ると立体的に分かります。
見る視点 | わかること |
① 成約事例での価格水準 | 上場企業による買収の公開事例は年商10億円超の帯に限られ、年商倍率はいずれも約0.2倍前後(詳細は売上規模別表) |
② 買い手の値付け方法 | オファーではEBITDA3〜5倍を軸にした方法が中心。設備を持つ業種らしく、時価純資産を基準にする方法も一定数 |
③ 1社あたりの関心の集まり方 | M&Aサクシードのデータでは、1案件に中央値3社(平均約5.7社、最大21社)の買い手がオファー |
まず、上場企業による買収のうち公開されている印刷会社関連の成約事例を、売り手の年商規模別に整理しました。譲渡額そのものよりも、「年商の何倍で成約しているか」の傾向に注目してください。
売り手の年商 | 年商に対する譲渡額の倍率(中央) | 譲渡額の目安レンジ |
10〜30億円 | 約0.2倍 | 約2億円〜約2.3億円 |
30億円〜 | 約0.2倍 | 約8.5億円〜約17億円 |
• 譲渡理由は「事業の成長」「後継者不在」「自社事業の選択と集中」がそれぞれ見られる
• 黒字の案件が中心で、年間契約など安定した受注を持つ案件が見られる
• 所在地は首都圏に限らず、地方の印刷会社の成約も見られる
事業の特徴 | 年商規模 | 成約額の目安 |
印刷 | 1億〜2億5,000万円 | 約2,940万円 |
印刷 | 1億〜2億5,000万円 | 約6,907万円 |
印刷 | 1億〜2億5,000万円 | 約7,629万円 |
結論:印刷会社の価格を決める最大の要素は、売上規模ではなく「設備と稼働率、そして顧客基盤を買収後も引き継げるか」です。印刷業は設備を持つ装置産業であり、買い手が気にするのは買収後に設備を埋める受注と顧客が残るかだからです。
評価要素には序列があります。同じ要素でも、価格への効き方は同じではありません。
順位 | 評価要素 | 影響度 | なぜそうなるか |
1 | 設備と稼働率(引き継げる生産体制と、設備を埋める受注) | ◎ 最重要 | 装置産業では設備と稼働率が収益力の土台。買い手は自社の仕事を載せられるか、稼働を維持できるかを見る |
2 | 営業利益(EBITDA) | ◎ 重要 | 買い手はEBITDA基準で値付けしやすい。利益が出ているほど素直に価格が上がる |
3 | 得意分野(商業印刷・パッケージ・ラベルなど)と顧客の継続性 | ○ | 分野によって利益率や需要の見通しが異なる。年間契約など継続的な受注は評価されやすい |
4 | 代表非依存・後継体制 | ○ | 後継者問題を抱える会社が多い業界。代表が抜けても営業と現場が回る体制は評価されやすい |
— | 売上の大きさ(単体) | △ 効きにくい | 公開事例でも年商倍率は約0.2倍前後。売上そのものより利益・設備・顧客基盤が見られる |
つまり、価格を上げたいなら順番があります。まず「設備と顧客を引き継げる状態」を整理し、次に「利益を残す」。売上を追うのはその後です。
結論:買い手のオファーは、EBITDA×3〜5倍を軸にした方法が中心です。設備を持つ業種らしく時価純資産を基準にする方法も一定数あり、買い手は収益力と資産の両方を見ています。
M&Aサクシードの印刷会社関連案件に届いたオファーで、買い手が提示した算定方法を集計すると、具体的な方法を示した中ではEBITDA倍率(3〜5倍が中心)を軸にした方法が最も多く、時価純資産を基準にする方法が続きます。
買い手が提示する算定方法(多い順) | 位置づけ |
EBITDA × 3〜5倍 | 最も多い型。収益力を基準に値付けする |
EBITDA × 3〜5倍 + 手元現金(ネットキャッシュ) | 上記に手元現金を加算する型 |
時価純資産法(資産の時価評価) | 印刷機など設備資産の時価を重視する方法 |
時価純資産 + 営業利益の数年分・EBITDA倍率 | 資産価値に、のれん(収益力)を加える方法 |
具体的にイメージすると
EBITDAが5,000万円なら、3〜5倍で1.5億〜2.5億円。これに手元現金や純資産の状況を加味した金額が、オファーの初期レンジになります。
ここからいえることはシンプルです。価格を上げるいちばん直接的な方法は「利益(EBITDA)を厚くし、設備と手元資金を健全に保つこと」。逆に、節税のために利益を圧縮していると、その分だけ評価も下がります。
結論:印刷会社関連の案件には、1案件あたり中央値3社の買い手がオファーを寄せています。多いケースでは21社が関心を示しており、複数の買い手を比較しながら相手を選べる可能性があります。
M&Aサクシードの印刷会社関連案件のオファーデータでは、1案件あたり中央値で3社、平均で約5.7社、多いケースでは21社の買い手がオファーを寄せています。
1案件あたりのオファー買い手数 | 実績(M&Aサクシード) |
中央値 | 3社 |
平均 | 約5.7社 |
最も多かった案件 | 21社 |
複数の買い手が同時に関心を示す状況は、条件交渉でも有利に働きます。まずは「自社にどんな買い手が、何社くらい関心を持つか」を知るところからで十分です。
では、売り手側の供給はどうでしょうか。現在、M&A市場に売りに出ている印刷会社関連の案件は約82件にのぼり、業種の中でも流通量が多い部類に入ります。
買い手側は、前述のとおり1案件あたり中央値3社がオファーを出しています。売り案件の流通量が多い業種だけに、買い手は複数の案件を並べて比較できる立場にあります。埋もれないためには、早めに動いて自社の強み——収益性、顧客基盤、人材——を整理して見せることが重要です。
そのうえで大事になるのが、オファーの集め方です。M&Aサクシードのようなプラットフォームでは、複数の買い手が同時に案件を検討するため、比較できるオファーを同じ期間に集めやすくなります。1社ずつ順番に打診して回るのではなく、複数のオファーを手元に並べて、価格や条件を見比べながら交渉相手を選べる状態をつくれます。オファーが複数並ぶと、買い手も他社と比較されていることを前提に条件を出すため、価格だけでなく、従業員の処遇や引き継ぎ期間といった条件面でも、売り手の希望をのんでもらいやすくなります。
なお、売りに出ている案件の譲渡理由としては「後継者不在」が最も多くなっています。同じ悩みを抱えるオーナーが売却という選択肢を現実に選んでいる、ということでもあります。
実際にオファーを寄せた買い手のプロフィールを集計すると、買い手像は具体的に見えてきます。
買い手の属性 | 実際の傾向 |
売上規模 | 10〜30億円が最多(約3割)。1億〜5億円の中小から100億円超の大手まで幅広い |
M&A経験 | 約7割が「M&A経験あり」。買い慣れた買い手が中心 |
上場/非上場 | 8割超が非上場。東証プライム・スタンダード等の上場企業も |
エリア | 約4割が東京、大阪・愛知など都市圏が続く。北海道・北陸など地方の買い手も |
業種 | 同業の印刷会社のほか、製版など印刷関連、広告・販促、包装・梱包資材、出版など隣接領域の事業会社 |
結論:印刷会社の買い手で最も存在感があるのは、複数の印刷会社を取得して規模を広げる同業の印刷グループです。設備・顧客・技術をまとめて引き継ぎ、稼働率と生産効率を高められることが動機だからです。
買い手は4タイプに分かれますが、出現頻度もスピードも価格の出し方も同じではありません。実名の事例とあわせて、重みづけして見ます。
買い手タイプ | 位置づけ | 実名の例(売上規模) | 売り手から見た特徴 |
同業の印刷会社・印刷グループ | ◎ 主役候補 | 共立印刷(7838)※印刷会社を複数取得/日本創発グループ(7814)※印刷関連会社を複数取得 | 設備・顧客・技術を引き継ぎやすく、稼働率向上や生産の相互補完が見込める |
上場企業・大手企業 | ○ 価格が出やすい | 光村印刷(7916) | 事業領域の拡大、グループ化による生産体制の強化 |
異業種・隣接領域の事業会社(広告・販促、包装資材、出版など) | ○ シナジー次第 | —(オファーの買い手候補に一定数) | 印刷の内製化、顧客基盤の取得 |
投資ファンド | △ 条件次第 | — | 成長投資・ロールアップの起点 |
つまり「同業に安く買われるのでは」という心配は実態と一致しません。同業グループは、設備・顧客・人材をまとめて引き継ぎたいからこそ、事業の継続を前提に手を挙げてきます。
買い手・売り手ともに公表されている成約事例です。「どんな会社が、いくらで、なぜ評価されたか」の具体像としてご覧ください。
売り手の事業 | 売り手売上 | 買い手(売上規模) | 譲渡額 | 評価の軸 |
総合印刷業(商業印刷・パッケージ・証券印刷・出版物など)(新村印刷) | 約30億 | 光村印刷(7916)(約147.6億) | 約16.6億 | 印刷技術を軸に事業領域を広げてきた買い手が、厳しさを増す業界環境の中で、持続的な成長に向けた事業領域拡大の一環として取得 |
印刷業(西川印刷) | 約50.7億 | 共立印刷(7838) | 約10億 | オフセット輪転による商業・出版印刷を主力とする買い手が、DM・店頭POP・バリアブル印刷など多様化する印刷ニーズに対応する総合印刷体制を強化 |
印刷業(暁印刷) | 約52.1億 | 共立印刷(7838) | 約8.5億 | 商業・出版印刷に加え、バリアブル印字・圧着ハガキ・食品包材など新分野へ展開する買い手による、総合印刷会社化に向けたグループ強化 |
一般印刷・オンデマンド印刷、企画・デザイン、Web・映像制作(望月印刷) | 約10億 | 日本創発グループ(7814)(約801億) | 約2.3億 | 地域で培った一般印刷・オンデマンド印刷に加え、企画・デザインからWebサイト・動画制作まで広がる対応力を評価 |
結論:高く評価される会社と、伸びない会社を分けるのは、つきつめると一つの問い「買い手が安心して、設備・顧客・現場を引き継げるか」です。
買い手の頭にあるのは、買収後の心配です。「主要顧客が離れないか」「現場のオペレーターと技能が残るか」「代表がいなくなって営業が止まらないか」。この心配を小さくする要素は価格を押し上げ、大きくする要素は価格を下げます。
同じ年商規模でも、評価には差が出ます。
価格を押し上げる(買い手の不安を消す) | 価格を下げる(買い手の不安を増やす) |
◎ 設備が整備され、稼働を支える受注と顧客が買収後も残る | ◎ 設備が老朽化し、稼働を支える受注が細っている |
◎ 代表が抜けても営業・生産管理・現場が回る | ◎ 代表個人に営業・顧客関係が集中している |
○ 年間契約など継続的な受注があり、顧客が分散している | ○ スポット受注が中心で、顧客が1社に偏っている |
○ 営業利益が継続的に出ている | ○ 売上はあるが利益が薄い |
○ 設備台帳・契約書・労務・財務情報が整理されている | △ 必要資料が整理されていない |
最初の2行(◎)が決定的です。「設備と顧客を引き継げるか」「代表に依存していないか」この2つを整えるだけで、同じ業績でも評価は変わってきます。
※ 当社の成約事例・買い手の取得理由から見られる傾向の整理です。具体的な閾値は個社ごとに異なります。
外部の裏付けとして、登録支援機関の中小M&A実績にもとづく公的統計を参照します。印刷会社が属する「印刷・同関連業」(製造業)の数値です。
参照業種(件数) | 指標 | 第1四分位 | 中央値 | 第3四分位 |
印刷・同関連業(20件) | PBR | 0.4倍 | 0.4倍 | 1倍 |
相場を見たら、次は「自社に実際どんなオファーが届くか」を確かめてみることもできます。
M&Aサクシードでは、相場を見たあと、気が向いたら試しにプラットフォームの会員企業からオファーを受け取ってみることができます。ここまでの相場の確認も、オファーの受け取りも、無料でご利用いただけます。
オファーを受け取るだけなら、契約は不要・決算書などの書類提出も不要・(オファー相手の企業に対して)会社名は匿名のままで利用できます。
「売却すると決めてから動く」のではなく、「オファーを見てから、どうするかを考える」という順序で進められます。
届くオファーには、「いくらで」だけでなく、次のような内容まで含めることができます。
• なぜ自社に関心があるのか(買い手の狙い・シナジー)
• 連帯保証はどうなるか
• 従業員はどうなるか(雇用の継続)
• 自分はいつまで経営に関わるか(引き継ぎ期間)
実際のオファーは、たとえば次のような形で届きます。
会社名 | 株式会社サクシードテック ※本記事用のサンプル表記 |
本社所在地 | 東京都 |
事業内容 | 首都圏を中心に事業を展開し、印刷会社との連携・取り込みに注力する企業。 |
売上高 / 従業員 | 100億円以上 / 1,001名以上 |
上場区分 / M&A実績 | 非上場 / 2〜5案件 |
関心を持った背景 | 弊社は人材・体制の強化を経営課題としており、貴社が強みとする領域は、まさに弊社が探し求めていた領域です。同エリアの営業・調達基盤と組み合わせることで強いシナジーが見込まれます。ぜひ早期に秘密保持契約を締結し、責任者同士の面談の機会を頂戴できれば幸いです。 |
買収金額の算定方法 | EBITDAの3〜5倍(案件により手元現金=ネットキャッシュを加算)。対象会社の収益性をベースに株式評価。詳細はデューデリジェンスを通じて検討。 |
経営者の処遇 | 売り主様のご意向を全面的に尊重。従業員・取引先へのスムーズな承継のため、数ヶ月〜半年程度の引き継ぎ期間(顧問等)をご相談。形態は状況に合わせ柔軟に。 |
連帯保証の解除時期 | クロージング時までに金融機関と調整し、前オーナー様の連帯保証を全て解除することを前提。 |
匿名なのはあなたの会社の社名だけ。オファーを送る買い手側は、社名・所在地(都道府県)・売上規模・M&A実績まで明かしています。だから「誰が、なぜ、いくらで」を確認したうえで、進めるかどうかを判断できます。
良いオファーが届いたときだけ、ご自身の判断で次のステップに進めます。もちろん、M&Aプロセスに詳しいM&Aサクシードの担当者と一緒に進めることもできます。
▶ まずは自社に近い印刷会社の相場を見る(無料)
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相場の確認も、会員企業からのオファーの受け取りも無料です。契約や決算書の提出も不要で、オファー相手の企業に対しては会社名を匿名のまま利用できます。
問題ありません。むしろ決める前に、同業の相場や届くオファーを見ておくことで、続ける・伸ばす・譲るという選択肢を落ち着いて考えられます。オファーを見てから、どうするかを考える順序で進められます。
可能性はあります。買い手は赤字理由、人材の定着、顧客契約、改善余地を確認します。実際に営業赤字でも買い手がついた事例があります。
年商だけで決まりません。小規模でも、利益が出ている・顧客契約が安定している・買い手にとって魅力的な人材や資産を抱えている場合は対象になります。
売上倍率だけで見るのは適切ではありません。買い手のオファーでは、利益(EBITDA)を基準に手元現金を加える形が最も多く見られます。
印刷会社の価格を最も左右するのは「設備と稼働率、顧客基盤を買収後も引き継げるか」、次に「利益(EBITDA)」です。公開事例の年商倍率は約0.2倍前後と低めですが、これは装置産業として利益・設備・顧客基盤で評価されるためで、買い手の値付けはEBITDA倍率や時価純資産を軸に行われます。買い手の主役は、設備・顧客・技術をまとめて引き継ぎたい同業の印刷グループです。
そして、自社に実際どんなオファーが届くかは、匿名・無料で確かめられます。まずは相場を見て、気が向いたらオファーを受け取ってみる、その順序で、ご自身のペースで選択肢を広げてみてください。
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