





「同業の保育園・保育所が、いくらでM&Aされたのか」気になったことはありませんか。
保育園・保育所の評価は、売上高だけでは決まりません。利益、人材の定着、事業の独自性や強み、顧客との契約継続性、そして買い手とのシナジーで変わってきます。同じ売上規模でも、評価が数倍違うことは珍しくありません。
この記事は、売却をすすめるものではありません。会社を続ける・伸ばす・いつか譲る、どの選択肢を考えるにしても、まず「自社が市場でどう見られているか」を知っておくことには意味があります。公開されているM&A成約事例と、M&Aサクシードのプラットフォームに届いた実際のオファーデータをもとに、その見方を解説します。
保育園・保育所の相場は、①公開されている成約事例での価格水準、②買い手が実際に使う値付け方法、③1社にどれだけの買い手が関心を示すかをあわせて見ると立体的に分かります。
見る視点 | わかること |
① 成約事例での価格水準 | 上場企業による買収の公開事例では、年商5〜10億円規模で年商の約1.3倍の成約がみられる(公開事例は限られるため、実名事例・公的統計とあわせて確認) |
② 買い手の値付け方法 | オファーで最も多いのは「EBITDA(利益)の3〜5倍+手元現金」 |
③ 1社あたりの関心の集まり方 | M&Aサクシードのデータでは、1案件に中央値3社・平均8社の買い手がオファー。多いケースでは23社 |
まず、上場企業による買収のうち公開されている保育園・保育所の成約事例を、売り手の年商規模別に整理しました。保育園・保育所の公開成約事例は多くなく、倍率をお示しできる年商帯は限られますが、譲渡額そのものよりも「年商の何倍で成約しているか」の傾向に注目してください。
売り手の年商 | 年商に対する譲渡額の倍率(中央) | 譲渡額の目安レンジ |
5〜10億円 | 約1.3倍 | 約7.6億円 |
• 譲渡理由は「自社事業の選択と集中」が中心。複数事業のうち保育事業を切り出して引き継ぐケースがみられる
• 黒字の状態で成約したケースが中心。利益が出ているうちに選択肢を検討する動きがみられる
• 認可・企業主導型・小規模認可と、認可種別の異なる園でそれぞれ成約がみられる
事業の特徴 | 年商規模 | 成約額の目安 |
保育園 | 1〜2.5億円 | 約1,350万円 |
保育園 | 1〜2.5億円 | 約5,000万円 |
保育園 | 1,000万〜5,000万円 | 約5,500万円 |
結論:保育園・保育所の価格を決める大きな要素は、売上規模ではなく「配置基準を満たす保育士が定着しているか」と「定員充足率が安定しているか」です。保育士がいなければ園の運営は続かず、定員の充足が収益の源泉だからです。
評価要素には序列があります。同じ要素でも、価格への効き方は同じではありません。
順位 | 評価要素 | 影響度 | なぜそうなるか |
1 | 保育士(有資格者)の確保と定着 | ◎ 最重要 | 配置基準を満たせなければ運営を続けられない。買い手が気にするのは、買収後に保育士が辞めないか |
2 | 定員充足率・利用児童数の安定 | ◎ 重要 | 収益の源泉であり、地域の子育て世帯から選ばれている証拠。高い充足率で黒字が続いていれば、素直に価格が上がる |
3 | 認可の種別と自治体との関係 | ○ | 認可・小規模認可・企業主導型で収入構造が異なる。自治体との良好な関係や指導監査で問題がないことは評価を支える。認可や補助金の引き継ぎ方は自治体・法人形態により異なるため、個別の確認が前提 |
4 | 施設の状態・代表(園長)非依存の運営 | ○ | 園舎の老朽化や修繕負担は評価を抑える要素。園長個人の人望だけに運営・採用が依存していないことも見られる |
— | 売上の大きさ(単体) | △ 効きにくい | 売上が大きくても、定員割れが続く・保育士の離職が多い・利益が薄いと評価は伸びない |
つまり、価格を上げたいなら順番があります。まず「保育士が定着し、定員が埋まっている状態」を示せるようにし、次に「利益を残す」。売上規模を追うのはその後です。
結論:保育園・保育所へのオファーは「EBITDA(利益)の3〜5倍+手元現金」を標準形に、EBITDAか純資産を軸にした方法に集約されます。買い手の多くが共通して利益と運営の安定を見ています。
M&Aサクシードの保育園・保育所関連案件に届いたオファーで、買い手が提示した算定方法を集計すると、算定方法を明示した買い手の中ではEBITDA倍率+手元現金が最多。残りの方法も、EBITDAか純資産を軸にした変種にすぎません。
買い手が提示する算定方法(多い順) | 位置づけ |
EBITDA × 3〜5倍 + 手元現金(ネットキャッシュ) | 標準形。これが基準と考えてよい |
EBITDA × 3〜5倍 | 手元現金を分けずに、収益力そのもので評価する変種 |
EBITDA × 数倍 + 手元現金(ネットキャッシュ) | 倍率に幅を持たせて収益力を評価する変種 |
時価純資産法 | 施設など保有資産の時価を基準にする方法 |
その他(案件の個別事情に応じた算定) | 施設・認可の状況や買い手とのシナジーを踏まえた個別の提示 |
具体的にイメージすると
EBITDAが5,000万円なら、3〜5倍で1.5億〜2.5億円。これに手元現金を上乗せした金額が、オファーの初期レンジになります。
ここからいえることはシンプルです。価格を上げるいちばん直接的な方法は「定員充足率を保って利益(EBITDA)を厚くし、手元現金を残しておくこと」。逆に、節税のために利益を圧縮していると、その分だけ評価も下がります。
結論:「うちのような保育園に買い手がつくのか」という心配は、データを見ると小さいといえます。保育園・保育所関連の案件には、1社あたり中央値3社・平均8社の買い手がオファーを寄せています。
M&Aサクシードの保育園・保育所関連案件のデータでは、1社あたり中央値で3社、平均では8社、多いケースでは23社の買い手がオファーを寄せています。保育は、買い手の関心が集まりやすい領域といえます。
1案件あたりのオファー買い手数 | 実績(M&Aサクシード) |
中央値 | 3社 |
平均 | 8社 |
最も多かった案件 | 23社 |
複数の買い手が同時に関心を示す状況は、条件交渉でも有利に働きます。まずは「自社にどんな買い手が、何社くらい関心を持つか」を知るところからで十分です。
次に、売り手側の供給を見てみましょう。保育園・保育所関連の売り案件は市場に約24件あり、案件の流通は安定して続いています。
一方の買い手側は、1案件あたり中央値3社のオファーを出しています。需給バランスの取れた市場だけに、評価は個社の中身で決まります。同業種の他案件と並んだときに何が違うのかを示せる売り手ほど、良い条件を引き出しています。
そのうえで大事になるのが、オファーの集め方です。プラットフォーム型のM&Aでは、複数の買い手が同じタイミングで案件を検討するため、比較検討できるオファーを同じ期間にまとめて集めやすくなります。相対で1社と向き合うのではなく、複数のオファーを並べて比較しながら進められる状態です。オファーが複数並ぶと、買い手も他社と比較されていることを前提に条件を出すため、価格だけでなく、社名・屋号の存続や従業員の雇用継続といった条件面でも、売り手の希望をのんでもらいやすくなります。
ちなみに、市場に出ている案件の譲渡理由を見ると「後継者不在」が中心で、「選択と集中」も一定数あります。売却は特別な事情のある会社だけのものではなくなりつつあります。
実際にオファーを寄せた買い手のプロフィールを集計すると、保育園・保育所の買い手像はかなり具体的に見えてきます。
買い手の属性 | 実際の傾向 |
売上規模 | 1〜5億円が最多。売上5億円未満の中小の買い手が約6割を占め、100億円超の大手まで幅がある |
M&A経験 | 「M&A経験あり」と「経験なし」がほぼ半々。初めてのM&Aとして保育園を選ぶ買い手も少なくない |
上場/非上場 | 9割超が非上場。東証スタンダード等の上場企業からの提示も |
エリア | 東京が最多(約4分の1)だが、埼玉・福岡・福島・北海道・宮城など全国に広がる |
業種 | 同業の保育運営のほか、福祉・教育など子どもに関わる隣接領域の事業会社(後述の買い手候補は、業種タグ・事業内容が保育関連の会社を集計) |
結論:保育園・保育所の買い手で最も存在感があるのは、「園・保育士・園児をまとめて引き継ぎ、保育の基盤を広げたい同業の保育運営会社」です。用地確保や保育士採用の難しさから新規開設による拡大が難しくなるなか、すでに地域で選ばれている園と有資格者の体制を引き継ぐこと自体に価値があると考えているからです。
買い手は4タイプに分かれますが、出現頻度もスピードも価格の出し方も同じではありません。実名の事例とあわせて、重みづけして見ます。
買い手タイプ | 位置づけ | 実名の例(売上規模) | 売り手から見た特徴 |
同業(保育運営)のロールアップ型 | ◎ 主役 | AIAIグループ(約130.7億、認可保育施設を多数運営するグループが保育会社を取得) | 園・保育士・園児をまとめて引き継ぐ前提で評価。運営と雇用の継続を重視しやすい |
子育て支援・教育系の事業会社 | ○ 価格が出やすい | テノ.ホールディングス(約160.2億、子育て支援サービス大手)/京進(約264.6億、教育系上場企業) | 既存の子育て支援・教育サービスと保育をつなぎ、サービスの幅と接点を広げる |
異業種・事業会社 | ○ シナジー次第 | —(保育関連の買い手候補にも一定数) | 福祉など隣接領域からの参入や、地域での事業の多角化 |
投資ファンド | △ 限定的だが存在 | — | 成長投資・ロールアップの起点。経営支援を受けて拡大 |
つまり「同業に安く買われるのでは」という心配は実態と逆です。同業・子育て支援系の買い手は、園児・保育士・地域の信頼をまとめて引き継ぎたいからこそ、運営と雇用の継続を前提に手を挙げてきます。また、オファーデータでは売上5億円未満の中小の買い手が約6割を占め、エリアも全国に広がっており、地域で保育・福祉を担う会社が買い手になるケースも十分に考えられます。
買い手・売り手ともに公表されている成約事例です。「どんな会社が、いくらで、なぜ評価されたか」の具体像としてご覧ください。
売り手の事業 | 売り手売上 | 買い手(売上規模) | 譲渡額 | 評価の軸 |
認可保育園・小規模保育施設の運営(Berry) | 約10.9億 | AIAIグループ(約130.7億) | 20億 | 認可保育施設を多数運営するグループによる保育基盤の拡大と、保育・療育・教育を一体的に提供する体制の強化 |
認可保育所の運営・ベビーシッター等の子育て支援事業(オフィス・パレット) | 約5.7億 | テノ.ホールディングス(約160.2億) | 7.55億 | 働く女性・子育て世帯を支えるサービスの拡充と保育事業の強化 |
保育所の運営(ビーフェア) | 約3.4億 | 京進(約264.6億) | 5.2億 | 学習塾に次ぐ新たな柱として保育事業へ投資。教育サービスとの相乗効果 |
結論:高く評価される園と、伸びない園を分けるのは、つきつめると一つの問い「あなたが手を離しても、保育士と子どもたちは残るか」です。
買い手の頭にあるのは、買収後の心配です。「買った後に保育士が辞めないか」「定員割れが進まないか」「認可や自治体との関係の引き継ぎでつまずかないか」「園長がいなくなって運営が回らなくならないか」。この心配を小さくする要素は価格を押し上げ、大きくする要素は価格を下げます。
同じ売上規模でも、評価には差が出ます。
価格を押し上げる(買い手の不安を消す) | 価格を下げる(買い手の不安を増やす) |
◎ 保育士が定着し、買収後も配置基準を満たせる | ◎ 離職が多く、有資格者の確保が不安定 |
◎ 定員充足率が高く、利用児童数が安定している | ◎ 定員割れが続き、利用児童数の減少が止まらない |
○ 自治体との関係が良好で、指導監査での大きな指摘がない | ○ 指導監査での指摘・改善指導の履歴がある |
○ 園長(代表)が替わっても運営・採用・保護者対応が回る | ○ 園長個人の人望・人脈に運営や採用が依存している |
○ 認可関係・契約・労務・財務の資料が整理されている | △ 必要資料が整理されていない |
最初の2行(◎)が決定的です。「保育士が残るか」「定員が埋まり続けるか」この2つを整えるだけで、同じ業績でも評価は変わってきます。
※ 当社の成約事例・買い手の取得理由から見られる傾向の整理です。充足率などの具体的な閾値は個園ごとに異なります。また、認可や補助金の引き継ぎ・法人形態(社会福祉法人・株式会社等)による手続きの違いは、自治体・認可種別ごとに個別の確認が必要です。
外部の裏付けとして、登録支援機関の中小M&A実績にもとづく公的統計を参照します。保育所(児童福祉事業)が含まれる「社会保険・社会福祉・介護事業」の区分を参照します。
参照業種(件数) | 指標 | 第1四分位 | 中央値 | 第3四分位 |
社会保険・社会福祉・介護事業(99件) | EV/EBITDA | 3.7倍 | 9倍 | 19.2倍 |
社会保険・社会福祉・介護事業(104件) | PER | 3.5倍 | 8.5倍 | 19.7倍 |
相場を見たら、次は「自社に実際どんなオファーが届くか」を確かめてみることもできます。
M&Aサクシードでは、相場を見たあと、気が向いたら試しにプラットフォームの会員企業からオファーを受け取ってみることができます。ここまでの相場の確認も、オファーの受け取りも、無料でご利用いただけます。
オファーを受け取るだけなら、契約は不要・決算書などの書類提出も不要・(オファー相手の企業に対して)会社名は匿名のままで利用できます。
「売却すると決めてから動く」のではなく、「オファーを見てから、どうするかを考える」という順序で進められます。
届くオファーには、「いくらで」だけでなく、次のような内容まで含めることができます。
• なぜ自社に関心があるのか(買い手の狙い・シナジー)
• 連帯保証はどうなるか
• 従業員はどうなるか(雇用の継続)
• 自分はいつまで経営に関わるか(引き継ぎ期間)
実際のオファーは、たとえば次のような形で届きます。
会社名 | 株式会社サクシードテック ※本記事用のサンプル表記 |
本社所在地 | 東京都 |
事業内容 | 首都圏を中心に事業を展開し、保育園・保育所との連携・取り込みに注力する企業。 |
売上高 / 従業員 | 100億円以上 / 1,001名以上 |
上場区分 / M&A実績 | 非上場 / 2〜5案件 |
関心を持った背景 | 弊社は人材・体制の強化を経営課題としており、貴社が強みとする領域は、まさに弊社が探し求めていた領域です。同エリアの営業・調達基盤と組み合わせることで強いシナジーが見込まれます。ぜひ早期に秘密保持契約を締結し、責任者同士の面談の機会を頂戴できれば幸いです。 |
買収金額の算定方法 | EBITDA(利益)の3〜5倍 + 手元現金(ネットキャッシュ)。対象会社の収益性をベースに株式評価。詳細はデューデリジェンスを通じて検討。 |
経営者の処遇 | 売り主様のご意向を全面的に尊重。従業員・取引先へのスムーズな承継のため、数ヶ月〜半年程度の引き継ぎ期間(顧問等)をご相談。形態は状況に合わせ柔軟に。 |
連帯保証の解除時期 | クロージング時までに金融機関と調整し、前オーナー様の連帯保証を全て解除することを前提。 |
匿名なのはあなたの会社の社名だけ。オファーを送る買い手側は、社名・所在地(都道府県)・売上規模・M&A実績まで明かしています。だから「誰が、なぜ、いくらで」を確認したうえで、進めるかどうかを判断できます。
良いオファーが届いたときだけ、ご自身の判断で次のステップに進めます。もちろん、M&Aプロセスに詳しいM&Aサクシードの担当者と一緒に進めることもできます。
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問題ありません。むしろ決める前に、同業の相場や届くオファーを見ておくことで、続ける・伸ばす・譲るという選択肢を落ち着いて考えられます。オファーを見てから、どうするかを考える順序で進められます。
可能性はあります。買い手は赤字理由、人材の定着、顧客契約、改善余地を確認します。実際に営業赤字でも買い手がついた事例があります。
年商だけで決まりません。小規模でも、利益が出ている・顧客契約が安定している・買い手にとって魅力的な人材や資産を抱えている場合は対象になります。
売上倍率だけで見るのは適切ではありません。買い手のオファーでは、利益(EBITDA)を基準に手元現金を加える形が最も多く見られます。
保育園・保育所の価格を大きく左右するのは、売上規模ではなく「配置基準を満たす保育士が定着しているか」と「定員充足率が安定しているか」です。買い手のオファーはEBITDA(利益)の3〜5倍+手元現金を標準形とし、保育園・保育所関連の案件には1社あたり中央値3社・平均8社の買い手がオファーを寄せています。買い手の主役は、園・保育士・園児の引き継ぎを前提に手を挙げる同業の保育運営会社で、子育て支援・教育系の事業会社や、地域の中小の買い手も全国から手を挙げています。
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