人材業界(人材紹介・派遣)では、人材不足の解消などを目的としたM&Aが活発です。譲渡企業においては「従業員の継続雇用」、譲り受け企業においては「人員の確保」などのメリットを得られます。
人材業界のM&A・事業承継の動向と事例
人材紹介・派遣業界の現況
定義
人材業界(人材紹介・派遣)とは、顧客企業のニーズに応じて人材を派遣したり紹介斡旋したりする業界です。
業種 |
詳細 |
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人材紹介業 |
求職者と企業の間に入って、両者の雇用契約締結をサポートする事業。 |
人材派遣業 |
派遣元の事業主が自社で雇用する労働者を他社へ派遣を行い、労働者は派遣先の指揮命令を受けて労働に従事する事業。法律上の名称は労働者派遣事業。「一般人材派遣」、「技術者派遣」、「SES」、「人材活用・人材育成」といった業種が含まれる。 |
これらの業種を含む、人材紹介・派遣業界について、市場規模・動向・課題、M&Aの動向やメリットデメリットを解説します。
合わせて事例も紹介します。
市場規模・環境
2020年度における人材紹介・派遣業業界の市場規模は、矢野経済研究所のプレスリリース[1]によると8兆2,225億円(前年度比0.3%増)です。
内訳として、人材派遣業市場が7兆9,400億円(前年度比0.9%増)、人材紹介業市場が2,520億円(前年度比18.2%減)、再就職支援市場が305億円(前年度比23.0%増)となっています。
参考:人材ビジネス市場に関する調査を実施(2021年)(矢野経済研究所)を基に弊社作成
また、2016年度から2020年度の人材ビジネスの市場規模の推移は以下のとおりです。
参考:人材ビジネス市場に関する調査を実施(2021年)(矢野経済研究所)を基に弊社作成
人材派遣業市場においては、コロナ禍で派遣の需要は低減しているものの、同一労働賃金の適用により単価が上昇し、微増となっています。
また、人材紹介業市場は、ここ数年大幅な拡大傾向が継続していましたが、コロナ禍で人材採用意欲の減などにより、マイナスに転じています。
業界の課題・展望
人材紹介・派遣業界における課題は人材不足が生じている点です。
さらに、働き方改革などが進められることにより、終身雇用の終焉やジョブ型雇用、場所にとらわれない働き方などこれまでとは異なった働き方について対応していく必要があります。
人材紹介・派遣業界については以下のような課題を抱えています。
- 慢性的な人材不足
- AIなどの発展による職種の変化に対する対応
- 新しい働き方に対する対応
- 高齢化社会により60歳以上の雇用に対する対応
新型コロナウィルスの影響を受け、人材採用が縮小傾向となっていますが、一方で転職を考える求職者は増加しています。
今後、働き方改革関連や外国人労働者の受け入れ、高齢者の雇用などにより、将来的に状況が大きく変化する可能性があるため、業界内で大きな変化が生じる可能性があります。
人材紹介・派遣業界のM&A動向
M&Aの件数・規模
中小企業の人材紹介業や人材派遣業ではM&Aによる再編が行われています。
2012年労働者派遣法改正により、グループ内派遣に規制がかけられた結果、外販需要を取り込めない資本系派遣会社を独立系派遣会社が買収するケースが多くみられました。
2021年における人材紹介・派遣業界におけるM&A件数は27件[2]であり、前年と同水準でした。
コロナ禍の出口が見えないものの、人材不足となっているIT関連などを中心に好調に推移していることで、同水準となりました。
過去10年で最多件数は2018年の30件となっており、依然として高水準で推移している一方で、取引金額については100億円を超えるような大規模な案件がなくなり、小粒の案件が目立つ形となっています。
なお、2018年から2021年までの件数は以下のとおり推移しています。
参考:2020年人材サービス業のM&A、【人材サービス】2021年のM&Aは前年と同じ27件(M&A Online)を基に弊社作成
M&Aが行われている背景
人材紹介・派遣業では、以下を背景にM&Aが活用されています。
- 業界再編する大手の人材紹介業や人材派遣業の企業に中小企業が対抗するため
- 慢性的な人材不足が生じているため
- 後継者がおらず、事業承継を行うため
M&Aの成功可能性を高めるポイント
M&Aを成功させる可能性を高めるポイントは以下となります。
全業種共通
譲渡企業が重視すべき要素
- 自社の強みである経営資源や実績などを明確にする
- 交渉の中で譲歩できる条件とできない条件を明確にした上で交渉に臨む
- 業績が伸びているタイミングや市場が好調のタイミングで売却する
- あらかじめ企業価値を高める施策を進めておく
譲り受け企業が重視すべき要素
- 専門家を利用してデューデリジェンスを実施し、その結果を買収価格に反映する
- 買収による効果と実行可能性について事前に検討する
- 誠意ある対応で譲渡企業と交渉に臨む
- 譲渡企業から引き継ぐ従業員や取引先を尊重する
- M&A後のPMI(統合作業)を計画的に行う
人材紹介・派遣
譲渡企業が重視すべき要素
- 顧客基盤を洗い出しておく
- 仕組み化を進めておく
- 法令等については適切に対応しておく
譲り受け企業が重視すべき要素
- 自社の顧客基盤とのシナジー効果を検討する
- DXによる業務効率化が進んでいるか確認する
技術者派遣・SES
譲渡企業が重視すべき要素
- 自社の強みとなる技術分野を明確にする
譲り受け企業が重視すべき要素
- 必要となる人材要件を明確にする
- 自社の技術者とのシナジー効果が見込める相手企業を選定する
人材紹介・派遣業界でM&Aを行うメリット・デメリット
メリット
譲渡企業 |
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譲り受け企業 |
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デメリット
譲渡企業 |
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譲り受け企業 |
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人材紹介・派遣業界のM&A事例・インタビュー
主な有名事例
M&Aが行われた時期 |
譲渡企業・譲り受け企業の概要 |
M&Aの目的・背景 |
M&Aの手法・成約 |
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2021年4月 |
譲渡企業:プログレスグループ 譲り受け企業:UTグループ |
譲り受け企業:高品質なサービスの提供 |
手法:株式譲渡 結果:ライジング・ジャパン・エクイティ第二号投資事業有限責任組合が株式を100%取得することで子会社化 取得価額:30億9,500万円[3] |
2021年8月 |
譲渡企業: 富士通エフサス・クリエ 譲り受け企業:UTグループ |
譲り受け企業:富士通グループとの関係強化、人材活用の構造的変化への対応 |
手法:株式譲渡 結果:UTグループが富士通エフサスより51%取得することで子会社化 取得価額:1億9,000万円[4] |
2021年11月 |
譲渡企業:ヒューマン・アソシエイツ・ホールディングス 譲り受け企業:三井物産 |
譲り受け企業:ウェルネス事業におけるソリューションメニューの拡充、顧客基盤の拡大 |
手法:TOB 結果:MBK Wellness Holdingsが株式を取得することにより子会社化[5] 取得価額:29億1,600万円[6] |
[1]人材ビジネス市場に関する調査を実施(2021年)(矢野経済研究所)
[2]2021年のM&Aは前年と同じ27件(M&A Online)
[3]プログレスグループの株式取得(子会社化)関するお知らせ(UTグループ)
[4]富士通エフサス・クリエの株式取得(子会社化)に関するお知らせ(UTグループ)
[5]ヒューマン・アソシエイツ・ホールディングス株券等に対する公開買付けの開始に関するお知らせ(三井物産)
[6]ヒューマン・アソシエイツ・ホールディングス株券等に対する公開買付けの結果に関するお知らせ(三井物産)