アドテクノロジー、コンテンツ、ゲーム、インベストメント事業を柱としながら、次なる事業の柱を増やすべく、EdTechやメディアなど多様な事業領域の企業をグループ会社に持つユナイテッド株式会社。それぞれの領域でナンバーワンになることで「日本を代表するインターネット企業」を目指している。
2016年にM&Aでユナイテッドの子会社になった、オンラインスクールの「TechAcademy(テックアカデミー)」を運営するキラメックス株式会社もその一社。グループに入ったことで、業績は年々倍増し、スクールの受講生数はM&A直後の30倍に増加したという。
そこで、ユナイテッド代表取締役社長の金子陽三氏と、キラメックス代表取締役社長の樋口隆広氏、副社長の金麗雄氏に、どういった経緯でキラメックスは子会社になり、どのようにスケールしたのか、お話を伺った。
「事業を伸ばす選択肢」としてM&Aを選択
ーー:キラメックスは創業からユナイテッドの子会社になるまで、どのような歴史を歩んできたのかを教えてください。
金 現在はオンラインスクールの「TechAcademy」を運営していますが、創業時の事業は共同購入型クーポンサイトの「KAUPON」でした。
創業者の村田雅行(現・メルカリCMO)が1人でサービスを開発し、2010年5月にリリースするタイミングで私もジョイン。クーポン業界参入のタイミングが日本で2番目と早かったこともあり、すぐに資金調達に成功し、オフィスを構えて従業員も約30人に増やしました。
サービス開始直後にはリクルートのポンパレやグルーポン・ジャパンのグルーポンが参入するなど、市場は“クーポン戦国時代”とも言える盛り上がりを見せるように。しかし、おせち事件などのトラブルなどによってブームは一気に沈静化。2年ほど頑張りましたが、KAUPON の事業を譲渡して撤退する決断を下しました。
それからは、メンバーとアイデアを出し合い、次に立ち上げる事業をゼロから考えました。そしてたどり着いたのがプログラミングの教育事業。試しに「非エンジニア向けのプログラミング教室」を開催すると好評だったので、この事業をどうすればスケールさせられるかを模索し始めました。
2年ほど試行錯誤し、ようやく出た答えが、オンライン完結、短期集中でテクノロジーを習得する「オンラインブートキャンプ」です。この反響が非常に良くて、ようやく成長フェーズに入れそうだと思ったタイミングで、ユナイテッドから声がかかりました。
金子 ユナイテッドでは、当時展開していたスマホのアプリ事業と広告事業とは違う性質を持つ新規事業の立ち上げの必要性を感じていました。
社内で新規事業を立ち上げる方法はもちろん、外部企業への投資やM&Aなど、どの選択肢を取るべきかを考える過程で、私は複数のベンチャーキャピタルに「面白い会社があったら教えて欲しい」と声をかけていたんですね。その1社として紹介されたのがキラメックスでした。
樋口 当時ユナイテッドに在籍していた私は、同じタイミングで、あるイベントでキラメックスの事業プレゼンを見ました。「これだ!」と思って金子にキラメックスの話をすると、ちょうど金子もベンチャーキャピタルから紹介されていて。運命的なものを感じたので、すぐにコンタクトを取りました。
ーー:キラメックスは創業からユナイテッドの子会社になるまで、どのような歴史を歩んできたのかを教えてください。
金 オンラインブートキャンプを始めたばかりでしたし、手応えも感じていたので、お声がかかるまではバイアウトしようとは一切考えていませんでした。
ただ、事業を伸ばすために、あらためて資金調達をして採用活動に注力しようとしていたタイミングだったので、お話をいただいてからは「事業を伸ばす選択肢」としてM&Aは良いかもしれないと思うようになりました。
M&A前の経営合宿でつくりあげた事業計画が決め手となり合意
ーー:2015年10月末に初めて連絡を取り、2016年2月には完全子会社化のリリースを出されました。どのように合意形成したのでしょうか。
樋口 最初のミーティングで「M&Aという形で一緒に教育事業に取り組めないか」という話をしたのですが、そのときの印象がとても良く、お互いに前向きに検討できる感触がありました。
金子 その後も何度かお会いし、12月に「一緒にやるとしたらどんな事業計画を描けるか」を議論すべく、両社で合宿をしました。そこで出来上がったのが非常に夢のある事業計画。お互いに「これなら組まない理由はない」と合意し、年明けには契約条件を決めて、2月にクロージングしたという流れです。
決め手だったのは、キラメックスはユーザーが課金する理由が明確で、スケールさせるためのサービス設計ができているなど、ビジネスモデルがしっかりしていたこと。ユナイテッドの広告事業を掛け合わせれば、早いタイミングでスケールさせられると思いました。
それから、新規事業の立ち上げで一番大切なのは「誰がやるか」です。怒涛のクーポンショックを経験し、その上でもう一度ゼロから新しい事業に挑戦するキラメックスの創業メンバーは、とても頼もしいと思いました。
金 キラメックスも、スケールさせるにはどうしたらいいかをずっと模索していたので、ひとつの光が見えた感覚がありました。
M&A後、業績は倍々で推移し、受講者数は30倍に
ーー:M&A後、樋口さんを含む7人がユナイテッドから出向し、キラメックスの業績は倍々で成長していると伺いました。
樋口 最初の1年間は苦労も多かったですね。描いていた青写真通りにはいかないこともあり、カリキュラムやサービス設計、マーケティング施策など、メンバー全員でありとあらゆることを試しながら高速でPDCAを回す日々を過ごしていました。
グループに入り2年目以降、徐々に勝ちパターンが見えて成長角度が一気に上がり、そこからは、業績も倍々で推移しています。
リアルタイムでアクティブに勉強している受講生数に関しては、M&Aした直後は100名程度でしたが、今では3000名を超えました。M&A後のここ数年でプログラミング教育業界での存在感を出せるようになってきたと思います。
ーー:成長するキラメックスに対して、ユナイテッドはどのような支援をしたのでしょうか。
金子 基本的には「人」です。グループ入りしてもらうタイミングから当時のキラメックスのメンバーの数と同じぐらいの人数のメンバーをユナイテッドから出向してもらい、とにかくサービス拡充をスピードアップできるよう支援しました。それから、どの領域でも事業が伸びる理由が環境要因であることは多いので、どんな環境でも勝ち続ける会社になるよう、常に高い目線を持ち続けてもらうコミュニケーションを取りました。
金 人の支援は本当に助かりました。仮に自分たちでゼロから採用していたら、半年や1年は成長が遅れていたでしょうし、そうなると競争環境も変わって今のキラメックスはなかったと思います。
それまでは、どうすればスケールするのか、常に模索していた状態でしたが、ユナイテッドのグループになってからは、事業を5倍10倍に拡大していく仕事の仕方や考え方を最短ルートで学べました。
私はM&A前後で変わらずキラメックスの副社長という立場にいますが、やっていることは全く違いますね。常に新しいチャレンジをしている実感がありますよ。
M&Aは経営者が検討すべき、非常に重要な選択肢
ーー:ユナイテッドはM&Aや投資、社内起業などさまざまな取り組みによって、多様な事業の集合体を形成されています。企業を買収するにあたっての、選定基準や考え方はありますか?
金子 事業シナジーを求めるというよりは、「この人たちと一緒にやりたい」という人軸で判断しています。特に修羅場をくぐってきたような人は強く、キラメックスのようにM&A後にスケールすることは多いです。
M&Aは、非常に重要な「経営の選択肢」で、事業領域だけでなく仲間を増やすという意味でも重要なアプローチだと考えています。
樋口 ユナイテッドにはM&Aや社内起業などで8社の子会社があるのですが、グループになった後も子会社の意思を最大限尊重してくれるのが特徴だと思います。
私は2018年からキラメックスの代表取締役に就任しており、ユナイテッドの経営陣とは業績や経営に関する議論を行う場はもちろんあるのですが、「あれをやれ、これをやれ」といった指示は一切ありません。
自分たちで考えて自走して、グループの中で価値の最大化を目指す。いい距離感だと実感しています。
金子 それぞれの経営者には経営者としての責任を果たしてもらいたいですし、継続して価値提供をして欲しいと思っています。そのためには経営者が自らきちんとした経営としての意思決定をすべきで、親会社のいいなり状態は絶対に避けたいと思っています。業績を向上させ更に成長するために良い意味でのプレッシャーは与えても、細かく口出ししないのがユナイテッドのやり方です。
ーー:海外に比べると、日本ではまだM&Aに対してネガティブに思う経営者はいると思います。M&Aをどう捉えるべきでしょうか。
金子 たとえば、「社員が継続的に成長できる会社でありたい」「価値を提供できる規模を拡大したい」と考えたとき、他社のグループに入った方が実現できそうなら、M&Aは検討すべき選択肢だと思います。
会社のフェーズによって最適な経営者が変わっていくのは必然で、どれだけ会社が大きくなってもずっと最適な経営者としてあり続けられる人の方がマイノリティだと思います。
継続的に成長したい・従業員の未来を大切にしたいと思うのであれば、フェーズに合わせて経営体制や資本構成を適切にすべきですし、それが経営者として取るべき重要な選択ではないでしょうか。
テクノロジー領域でナンバーワンを目指し、教育をアップデートしたい
ーー:最後に、キラメックスの今後の展開や目標について教えてください。
樋口 キラメックスが目指しているのは、「次世代教育のリーディングカンパニーになる」というビジョンを実現させ、「教育サービス」と言われたとき真っ先に思い浮かぶ存在になること。
テクノロジー教育の領域で圧倒的ナンバーワンを実現したら、また別の教育領域でも時代に合わせたサービスを展開していきたいとも考えています。どのジャンルでも「学びたい」「習得したい」と思った方々の選択肢に、キラメックスのサービスが入っている状態にしたいですね。
金 先生が生徒に“教える”という行為は約3000年前にスタートしているのですが、対面で教わるというベースの部分は3000年ずっと変わっていません。だからキラメックスは、教育をテクノロジーでアップデートしたい。
フリーランスや副業が受け入れられる時代になったからこそ、全国のエンジニアがオンラインで講師として活躍できているように、時代の変化に合わせて教育のあり方も変わるべきだと思っています。
樋口 学習効率は必ずしもオフラインがいいわけでなく、オンラインの方が効率的に学べて身に付くこともあります。だから、「本当はオフラインがいいけれど、オンラインしかないならそれでもいいか」ではなく「オンラインの方がいい」と言われるように啓蒙を続けたいですね。