市場縮小や需要の変化を受けて建材卸売業(建築資材卸売業)のM&Aが活発化しています。建材卸売業の業界動向とM&A動向、売却・買収のメリット、2019年から2022年のM&A事例を徹底解説します。(執筆者:京都大学文学部卒の企業法務・金融専門ライター 相良義勝)
建材市場は建材の納入先である建設業(建設会社・ハウスメーカー・工務店・ビルダーなど)の動向に左右され、とくに住宅や非住宅建築物(オフィス・商業施設・公共インフラなど)の新設着工件数の変動は建材卸業界の売上に大きな影響を与えます。
新設住宅の着工戸数は、人口減少などを背景に中長期的に減少傾向にあります。[1]
出典:居住用・非居住用建築物の市場規模予測(2022年)(矢野経済研究所)
2020年度にはコロナ禍も新設住宅需要にとってマイナス要因となりました。
在宅時間の増加や住環境への関心の高まりなどを背景に新設住宅需要が回復する動きも見られますが、短期的な影響に留まると考えられます。
新設住宅着工戸数の減少を受け、住宅向け建材の市場規模は中長期的に縮小していくことが予想されます。[2]
一方、非住宅建築物は分野により新設需要の動向やコロナ禍の影響が異なるものの、全体として見れば市場規模は2020年までは減少傾向にあり、今後は横ばいで推移するものと見られます。 [3]
新設住宅需要が中長期的に減少していくことが見込まれる一方、住宅リフォームの市場規模は微増~横ばいで推移すると予想され、建材卸売業界においても市場成長・潜在需要開拓の余地があると見られます。 [4]
出典:住宅リフォーム市場に関する調査(2021年)(矢野経済研究所)
また、温室効果ガス削減や持続可能性に関する政策の進展と企業・消費者の意識の高まりにより、環境に配慮した建築物への需要が拡大しており、環境配慮型建材の市場が世界的に成長していくことが見込まれます。 [5]
リフォームと環境配慮型建築の需要には大いに親和性・関連性があり、今後の展開が期待されるところです。
[1]建築着工統計調査報告 令和3年計(国土交通省)
[2]住宅設備・建材100品目の国内市場を調査(富士経済)
[3]居住用・非居住用建築物の市場規模予測(2022年)(矢野経済研究所)
[4]住宅リフォーム市場に関する調査(2021年)(矢野経済研究所)
[5]グリーン建材市場、2021年から2026年まで年率9%で成長見込み(グローバルインフォメーション)
建材卸売業のM&Aにおいては、同業者や住宅設備機器卸売業などの隣接業種企業、サプライチェーンの上流・下流に位置する企業(建材メーカーや住宅メーカーなど)との組み合わせが多く見られます。
非建築分野の卸売やリフォーム業への進出を図るためにM&Aを活用する例などもあります。
建材卸売業のM&Aにおける主な相手企業業種とメリット・目的をまとめると以下のようになります。
買い手業種 | 売り手業種 | M&Aのメリット・目的 |
---|---|---|
建材卸売 | 建材卸売 |
|
建材卸売 | 建材製造、建築・施工 |
|
建材卸売 | 住設などの関連商材卸売 |
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建材卸売 | リフォーム |
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建材卸売 | 非建築分野商材卸売 |
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建築・施工・リフォーム | 建材卸売 |
|
住設などの関連商材卸売 | 建材卸売 |
|
売り手側の目的・メリットとしては上記以外にも以下のようなものが挙げられます。
東洋住建:山形県寒河江市を中心に建築資材販売事業と建築工事業を展開[6]
ブルケン東日本:建材卸売・木材加工・建設工事などの事業を展開するJKホールディングスグループ[7]の一員として、仙台市を拠点に建築資材販売事業を展開[6]
譲り受け企業:東北エリアにおけるグループ基盤の拡充[6]
成商:高知市に本社を置き、鉄鋼建材卸売や建築金物加工の事業を展開[8]
フクヤ建設:高知市に本社を置き、注文住宅建築、リノベーション、オフィス・施設建築、宅地造成、不動産紹介などの事業を展開[8]
譲渡企業:後継者不在のため第三者へ事業を承継
譲り受け企業:住宅耐震化などで鋼材需要が高まるなか、譲渡企業の建材事業を取り込み経営多角化を図る[8]
アルミ工房萩尾:愛媛新居浜市に本社を置き、住宅サッシ・エクステリア建材の施工・販売業を展開[9]
ダイキアクシス:水回りを中心とする住宅設備機器卸売事業、水処理を中心とする環境機器の開発事業、再生可能エネルギー関連事業などを展開[10]
譲り受け企業:譲渡企業のサッシ・建材卸売事業を取り込み、商材拡充・提案力強化を図る[9]
寺田:北海道・東北・関東・九州に拠点を置き、主として寝具・衣料品・タオルなどの繊維商品の卸売事業を展開[12]
OCHIホールディングス:主に西日本地域において建材・住宅設備機器卸売を中心に建材加工事業、環境アメニティ事業(空調・冷熱機器や家庭用品の販売)、各種建設工事業などを展開する企業グループの持株会社[13]
譲り受け企業:東日本地域での事業拡大、環境アメニティ事業における仕入・販売の連携を通したシナジーの追求、建材・住宅設備関連以外の事業の強化(住宅需要の変化に影響を受けにくい企業体質の確立)[12]
西武建材:西武ホールディングスの子会社で、北関東・静岡を中心に建築材料と鉱物・金属材料を主とする製造・卸売業を展開[15]
西武ホールディングス:鉄道・バス・ホテル・レジャー・不動産・球団運営などの多角的な事業を展開する西武グループの持株会社[16]
東和アークス:建材の製造・卸売や再生可能エネルギー開発、石油燃料配達・サービスステーション運営などの事業を展開[17]
譲渡企業(西武ホールディングス):ノンコア事業の売却を通したグループ事業ポートフォリオの見直し(アセットライトな事業運営の実現)[15]
トラス:建材製品の横断検索機能や仕上表・材料表の管理・共有機能などを備えた建設業界向けクラウドサービス「truss」を運営[19]
渡辺パイプ:管材・住設・建材など生活インフラに関わる資材の総合卸売事業、農業設備の設計・施工・販売事業などを展開[20]
譲渡企業:「truss」開発体制と採用を強化するための資金調達[19]
譲り受け企業:譲渡企業との協業により、顧客である建築事業者に向けて生産性向上支援サービスの展開を図る[21]
バンポー工業:強化樹脂製板などの製造・販売事業を展開[22]
カナエ:合成樹脂・ガラス繊維などの化成品と内装建材の専門商社[22]
譲渡企業・譲り受け企業:メーカーと販売専門会社の一体化による市場シェア・事業領域拡大[22]
鹿島技研:福岡県嘉麻市に本社を置き、一般建設業、鋼製型枠・金物・鉄筋加工製造業、ISK社の柱脚工法「ISベース」[y1] の代理店事業など展開[23]
ヤマエ久野:飲食関係商材や住宅用建材・機器の卸売業を展開[24]
譲り受け企業:自社の建材部門と譲渡企業の建設事業との連携によるグループシナジーの追求、鋼製型枠・金物・鉄筋加工製造事業およびISベース柱脚事業への進出[23]
小倉サンダイン:住宅資材・建材・化学品の卸売とリフォーム工事の事業を展開[25]
岩田商会:化学品・樹脂・先端材料・建材の卸売事業などを展開[26]
譲り受け企業:自社事業と補完関係にある譲渡企業の事業を取り込み、強固な経営体制の確立と更なる成長を図る[27]
松本:千葉県で鋼材販売事業を展開(千葉県南部エリアにおけるエムエム建材販売の鋼材特約店)[28]
エムエム建材販売:鉄鋼総合商社エムエム建材の子会社で、東日本地域において鋼材の販売事業を展開[29]
譲り受け企業:鋼材販売事業における提案・提供機能の強化[28]
トータルリフォーム:東京都に本社を置き、リフォーム工事業を展開[30]
ヤブ原:東京都に本社を置き、湿式建材を中心とした卸売事業を展開[30]
譲り受け企業:新設着工戸数減少・建材市場縮小が見込まれるなか、成長分野であるリフォーム事業への進出を図る[30]
[6]当社子会社による東洋住建の事業譲受(JKHD)
[7]グループ紹介(JKHD)
[8]株式取得(フクヤ建設)
[9]アルミ工房萩尾の株式取得(ダイキアクシス)
[10]事業紹介(ダイキアクシス)
[11]沿革(ダイキアクシス)
[12]寺田の株式取得(OCHIHD)
[13]グループ事業(OCHIHD)
[14]2022年3月期第3四半期報告書(OCHIHD)
[15]子会社株式譲渡(西武HD)
[16]サービス紹介(西武HD)
[17]事業内容(東和アークス)
[18]西武建材の株式譲受(東和アークス)
[19]資金調達を実施(トラス)
[20]事業紹介(渡辺パイプ)
[21]トラスへの出資(渡辺パイプ)
[22]バンポー工業の株式取得(カナエ)
[23]鹿島技研の株式取得(ヤマエ久野)
[24]事業紹介(ヤマエ久野)
[25]HOME(小倉サンダイン)
[26]建材事業部(岩田商会)
[27]小倉サンダインの株式取得(岩田商会)
[28]子会社における吸収分割(エムエム建材)
[29]事業紹介(エムエム建材販売)
[30]トータルリフォームの株式取得(ヤブ原)
建材卸売の市場規模は全体的には縮小傾向にありますが、リフォーム・環境関連では市場成長が見込まれています。
そうしたなか、事業基盤拡大や商材提案力向上、非建築分野の強化などを目的として建材卸売会社によるM&Aが盛んに行われており、今後さらにM&Aが活発化していくものと予想されます。
(執筆者:相良義勝 京都大学文学部卒。在学中より法務・医療・科学分野の翻訳者・コーディネーターとして活動したのち、専業ライターに。企業法務・金融および医療を中心に、マーケティング、環境、先端技術などの幅広いテーマで記事を執筆。近年はM&A・事業承継分野に集中的に取り組み、理論・法制度・実務の各面にわたる解説記事・書籍原稿を提供している。)