第三者割当増資とは?メリットや手続き、株価の算定方法を解説
- 執筆者: 前田 樹 (公認会計士)
会社を経営する上で、資金調達は避けては通れない問題となります。資金調達は、金融機関の借り入れ、あるいは、第三者割当増資のどちらかが採用されることが一般的です。今回は第三者割当増資のメリット・デメリット・手続きの流れ・最新事例を解説していきます。(公認会計士 前田 樹 監修)
まず第三者割当増資の概要、目的、株式譲渡の違いなどについて解説していきます。
第三者割当増資とは、既存の株主に対して平等に新株を割り当てるのではなく、特定の第三者に新株を割り当てて発行するというものになります。
M&Aの方法としても採用される第三者割当増資ですが、特徴として、①発行会社と友好的な取引であることが前提、②発行会社の100%の議決権を取得することができないこと、③発行会社が現金を直接調達することができることなどの特徴があります。
第三者割当増資では以下の目的が考えられます。
第三者割当増資では株式を発行して資金が直接払い込まれることになります。事業で必要な資金を第三者割当増資により調達することができます。
M&Aにおいては議決権の過半数あるいは3分の2以上を取得することを目的に実施されることがほとんどです。議決権の過半数を取得することで役員の選任あるいは解任などが可能になります。また、議決権の3分の2以上を取得することで定款を変更などが可能になります。
第三者割当増資を実施することで、議決権の過半数あるいは3分の2以上を取得するというスキームを使うことができるため、株式譲渡以外でよく使われるスキームとなります。そのほか、第三者割当増資はマイナー出資のケースでも資金調達目的で使われます。
他社との関係性を強化、資金を出資して議決権を保有してもらうことで目に見える形での連携の関係を構築できます。株式を所有してもらうことでお互いの連携が見え、それまで業務を他社に依頼していたものを連携する会社に依頼する方向にもっていきやすくなります。
株式譲渡との違いはスキームの組み方にもよりますが、株式譲渡では現株主から株式を譲渡してもらうため、株主構成は現株主が全てでなくとも抜けた構成となります。一方、第三者割当増資では既存株主は残ったまま新株が発行されるため、株主構成は既存株主が残った状態の構成となります。
また、株式譲渡は株主間での取引となるため、発行会社に影響はないですが、第三者割当増資は新株を発行して発行会社に資金を入れることになります。
これらの違いから、経営権を移転させたい場合には株式譲渡のスキームが用いられ、一方、資金調達を行いたい場合には第三者割当増資が用いられることになります。
まずは、第三者割当増資のメリットをみていきます。
第三者割当増資の一番のメリットは会社に直接資金を投入できる点となります。また、同様に資金を会社に投入することができる公募増資などと比較しても手続きが少なく、スピーディーに資金調達することができます。
資金調達ができるというメリットに近いものになりますが、資金調達をすることで純資産が増え、会社の信用力の指標とも言える純資産比率が高まります。また、第三者割当増資で会社に資金が入れば、事業規模拡大のための資金として活用することもできます。
第三者割当増資の目的にもあったように第三者割当増資をすることで、引受先との関係を強化することができます。
株式を保有してもらうことで、お互いの関係性も明確になり、また、株式を保有している以上、配当金を受け取るか、株式を売却した時の売却益が目的となるため、発行会社の規模を拡大するモチベーションが働き、発行会社との取引を増加させます。結果、引受先との関係は強化されます。
公募増資の場合、公募で引受先を募集するため、意図しない引受先が応募してくる可能性があります。第三者割当増資であれば、引受先を決めた上で実施することができるため、安心して案件を進めることができます。
第三者割当増資で資金調達した場合には、返済義務が生じません。もちろん、配当などで株主に対して還元は必要となりますが、社債や借入金などのように返済スケジュールがないため、社債や借入金と比べ、より柔軟な資金調達が可能になります。
公開会社の場合、取締役会決議で第三者割当の株式を発行することができるため、手続は簡便に進めることができます。有利な発行価額で発行した場合には、株主総会の特別決議が必要になりますが、そうでなければ上記の手続きで進めることが可能であるため、短い期間での実施が可能になります。
第三者割当増資を利用する場合、会社から新株を発行して引受先は資金を拠出して発行会社へ払い込まれます。この一連の流れにおいて、株式の譲渡などをするわけではないので税金が発生しません。第三者割当増資においては課税関係などを気にする必要がないため、余計な検討をする必要がありません。
次は、第三者割当増資のデメリットをみていきます。
第三者割当増資をした場合、必ず既存株主の株式が残ってしまうため、100%の議決権を取得することはできません。100%の株式を取得するケースであれば、他の手法を用いるか、第三者割当増資と他の手法を組み合わせる必要があります。
第三者割当増資をすることで、既存株主の保有割合が下がることになります。
例えば、発行済株式数が100株で1人株主だったとした時に、第三者に新株発行して増資してもらった場合、100株追加で発行すると既存の株主の保有割合が100%から50%となってしまいます。これが株式の希薄化となります。第三者割当増資の場合は、株式の希薄化が生じてしまいます。
第三者割当増資の場合、発行価額が発行法人の株式の時価よりも低いのか高いのかが問題となります。それは発行価額が高い場合には問題にはならない(既存株主の株価よりも高い金額で振り込まれる)のですが、発行価額が低い場合、既存株主は損するため、既存株主を保護する必要が出てきまず。
そのため、発行価額が明らかに低い場合は問題ないのですが、発行価額が株式の時価よりも低い金額での発行になりそうな場合には注意が必要になります。
たとえば、第三者割当増資で80%を取得する場合と株式譲渡で80%を取得する場合では、株式譲渡の方が資金は少額で取得することができます。譲渡の場合であれば現状の発行済株式数のうち、必要な割合を取得すれば達成できます。一方、第三者割当増資の場合は、既存株主の株式数があるため、その株式数をベースに必要な株式数が必要になるため、譲渡よりも多額に資金が必要になります。
資本金は1,000万円以上と1億円以上のラインを超えてしまうと増税になってしまう可能性があります。
資本金1,000万円を超えると、それまで消費税が免除されているとすれば、資本金が1,000万円を超えることで消費税が課税されることになり納税が発生します。
また、資本金1億円以上となると、法人税の軽減税率が適用できなくなります。そのほか、中小法人で優遇される税制も適用されなくなります。
第三者割当増資を実施する場合には、増資後の資本金の金額を注意しながら、調達額を検討しましょう。
次に第三者割当増資の手続きの流れをみていきましょう。公開会社においては以下の流れで第三者割当増資の手続きが進みます。
有利発行に該当する場合を除き、以下の募集要項を取締役会決議で決定することができます(会社法201条1項、199条2項)。有利発行の場合には、既存株主の保護のために株主総会の特別決議により決定する必要があります。
先述の事項を取締役会で定めた場合、払込期日(又は払込期間の初日)の2週間前までに、株主に対して先述の募集要項を通知するか、又は公告をする必要があります(会社法201条3項、4項)。
募集株式の引受けの申込みをしようとしている者に対して、以下の項目を通知する必要があります(会社法203条1項)。
募集株式の引受けの申込みをする者は、発行会社に対して、以下の事項を記載した書面を交付する必要がある(会社法203条2項)。
申込者の中から割当てを受ける者を定め、また割り当てる募集株式の数を定めることになります(会社法204条1項)。当該決定は、取締役会設置会社であれば取締役会決議により決定することができます(204条2項)。
募集株式の引受人は、払込日(又は払込期間内)に、それぞれの募集株式の払込金額の全額を、会社が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所において、払い込まれることになる(会社法208条1項)。
第三者割当増資をするにあたっては株価に対してプラスの影響が出る場合とマイナスの影響が出る場合があります。株価への影響であるため、基本的には上場会社を想定しています。
それでは、株価に与える影響をそれぞれの場合に分けてみていきましょう。
第三者割当増資により調達した資金を新規事業の立ち上げに用いられることや、既存事業の成長に用いられることで発行会社の業績の改善が見込まれる場合、株価にはプラスに影響します。業績が改善し、企業価値の向上が見込まれることで株価は上昇します。
第三者割当増資の引受先との関係が強化されることで、取引が拡大し、発行会社の売上高が増加する場合や外部への委託が減ることで費用を削減できる場合においては、発行会社の業績は改善します。そのため、発行会社の株価は第三者割当増資により上昇します。
業績悪化しており上場を維持することが難しく、上場廃止の可能性を払拭できない会社が第三者割当増資により純資産が増加することで上場廃止の懸念がなくなれば発行会社の株価は上昇に転じます。
ケースとしてはあまり多くはありませんが、ポテンシャルを秘めたプロジェクトを進行している会社に増資をすることで進行スピードが上がることが期待された場合なども株価は上昇します。
第三者割当増資を実施することで既存株主の1株あたり利益が下落することが見込まれます。そうすると既存株主は株式の売却を検討し、また、株式を購入する人も減るため、株価は下落します。
マーケット平均と比較して1株あたり利益などが下がらなければ、株価には影響しないのですが、下がる場合には上述の動きとなり、株価は下落します。
第三者割当増資の目的が純資産の改善、つまりは財務の改善や運転資金の確保、借入金が調達できないなどネガティブな内容の場合、株価は下がります。
会社は投資をすることで投資した会社が継続して利益を獲得し、その利益からの配当を得ることを目的にしています。ネガティブな内容の場合、その継続して得られる配当が得られず、また、会社自体も倒産することで株式すら回収できないと考え、株主は投資額を回収するため、売却を急ぎ株価は下落します。
ケースは多くはありませんが、有利発行により第三者割当増資を実施する場合には、既存株主に影響が出るため、株価は下落します。
第三者割当増資時の株価の算定方法は一般的な株価の算定方法と違いはありません。一般的な株価算定方法はコスト・アプローチ、マーケットアプローチ、インカム・アプローチの3手法があります。これらの手法についてみていきます。
コスト・アプローチは、株式の評価を前提とした場合、主として会社の貸借対照表上の純資産に着目したアプローチとなります。
コスト・アプローチでは、評価対象会社の純資産をもとに評価するため、対象会社の株価を容易に評価することができます。
一方で、純資産は過去からの蓄積を反映された純資産をベースに評価することになるため、将来の収益について一切織り込まれないことなります。また、評価対象会社に知的財産権などの無形資産があると考えられるケースにはその無形資産も評価されないことになります。
そのほか、純資産を評価のベースとしているため、取引の記帳などが誤っている場合などには適切に評価することができず、用いることはできません。
マーケット・アプローチは、上場している同業他社や類似取引事例など、類似する会社、事業、または取引事例と比較することによって相対的に価値を評価するアプローチとなります。
マーケット・アプローチでは、市場株価をベースに対象会社の株価を評価するため、客観的かつ公正な評価をすることができます。
一方で、市場株価が一時的な異常値を示している場合や、業種が類似している上場会社がない場合などは対象会社の株価を適切に評価ができません。
また、市場株価はいわゆる少数株主価値(=経営権を持たない価値)といわれ、経営権をとるために過半数を超える株式を取得する場合にはコントロール・プレミアムを考慮する必要があります。
インカム・アプローチは、評価対象会社から期待される利益、ないしキャッシュフローに基づいて価値を評価するアプローチとなります。
インカム・アプローチでは、対象会社の利益やキャッシュ・フローから計算されるため、対象会社独自の収益力などを反映させることができます。また、複数のシナリオや変動要素などさまざまな趣味レーションができ、柔軟に評価することができます。
一方で、計画は対象会社が自社で将来の予測を作成するため、主観的な要素が織り込まれ、恣意性を排除することが難しいです。また、当然ながら継続企業を前提に評価されることになるため、継続企業の前提が成り立たない企業であれば用いることができません。
第三者割当増資を実施するにあたっての注意点をみていきます。
第三者割当増資において、募集株式の払込価額が時価より低い金額になるかならないかにより、発行の手続きが異なります。
払込価額が時価より低い金額に該当する場合、株主総会の特別決議が必要になります。特別決議を行わずに有利な価格で新株発行を行った場合、取締役は会社に対して公正な払込金額と募集株式の払込価額の差額について、賠償責任を負うことになります。また、著しく不公正な払込金額で募集株式を引き受けた株主についても公正な払込金額との差額に相当する金額について支払い義務を負います。
そのため、発行価額が低くなりそうな場合には注意が必要となります。
ここで有利な発行価額の判断は、日本証券業協会から「第三者割当増資の取扱いに関する指針[1]」という指針を公表されています。
当該指針では「払込金額は、株式の発行に係る取締役会決議の直前日の価額(直前日における売買がない場合は、当該直前日からさかのぼった直近日の価額)に0.9を乗じた額以上の価額」とされています。
また、但し書きでは「直近日又は直前日までの価額又は売買高の状況等を勘案し、当該決議の日から払込金額を決定するために適当な期間(最長6か月)をさかのぼった日から当該決議の直前日までの間の平均の価額に 0.9 を乗じた額以上の価額」とも記載されており、これらの記載に合わせて検討する必要があります。
第三者割当増資実施する場合、経営権の獲得を目的にすると株式譲渡よりも多額の資金が必要となります。
先述した通り、第三者割当増資では既存株主が残ってしまうため、100%の経営権を獲得することができません。また、保有割合を高めるにあたって、株式譲渡では既存株主から買い取ればそのまま保有割合になりますが、第三者割当増資では既存株主の株式の割合を下げた上での出資となるため、多額の資金が必要となります。
100%取得や取得割合を高めたい場合や、資金を抑えたい場合には注意が必要となります。
最後に第三者割当増資の事例をみていきましょう。非上場会社を子会社化するために実施されるケースが多いですが、上場会社同士の資本提携などにも活用されていることが特徴的です。
2019年12月12日にヤマダ電機は大塚家具と資本提携を締結し、大塚家具が実施する第三者割当増資により発行される株式と新株予約権を引き受け、子会社化することを発表されています。
本件により、議決権割合は51.74%保有されることとなり、新株予約権が行使されると議決権割合は58.23%となる。なお、普通株式の取得価額は4,374百万円となっており、第三者割当による払込期日は2019年12月30日となっています。
本件により、家電に強みを持つヤマダ電機とインテリアに強みを持つ大塚家具の資本提携で、住空間におけるトータルコーディネート、また、坂路の拡大などにより競争力の強化が見込まれた案件となっています。
2019年5月10日に朝日放送グループホールディングスは、ディー・エル・イーが実施する第三者割当増資の引受を行い、ディー・エル・イーを子会社化すると発表されています。
本件により、朝日放送グループホールディングスはディー・エル・イーが実施する第三者割当増資の割当先となり、22,000,000株発行されました。議決権割合は51.97%となり、朝日放送グループホールディングスはディー・エル・イーの親会社とな離ました。なお、調達資金は2,752百万円となっており、資本業務提携契約の締結日が2019年5月10日、第三者割当増資に係る払込期日が2019年5月29日となっています。
本件によりディー・エル・イーグループが持つコンテンツの海外販売やプロモーション、共同プロジェクトの推進等を行い、総合コンテンツ起業化の推進を目指した案件となっています。
2019年12月5日にソーシャル経済メディア「NewsPics」やデータベース「SPEEDA」などの運営をするユーザーベースがグループにTBSなどを保有している東京放送ホールディングスとの資本業務提携のために第三者割当増資の形で、資金調達を実施すると発表されています。
なお、本件の資金調達額は2,000百万円となっており、払込期日は2019年12月24日となっている。
本件により、両社の強みを掛け合わせ、5G時代を見据え、また、日本のみならず海外も含めた若年層に支持されるコンテンツの配信やメディア展開を目指していく案件となっている。
2022年5月22日にきちりホールディングスの子会社であるオープンクラウドとマイナビとの間で資本業務提携契約が締結され、マイナビ及びみずほ成長支援第3号投資事業有限責任組合に対して第三者割当による新株式が発行されると発表されています。
本件は飲食業界と人材紹介業を行なっているマイナビとの提携で、今後事業を展開するにあたってお互いの事業の拡大を目的に実施されたものとなっている。
(執筆者:公認会計士 前田 樹 大手監査法人、監査法人系のFAS、事業会社で会計監査からM&Aまで幅広く経験。FASではデューデリジェンス、バリュエーションを中心にM&A業務に従事、事業会社では案件のコーディネートからPMIを経験。)
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