採石業・砂利採取業のM&A動向とメリット【事例も解説】
- 法務監修: 河野 雅人 (公認会計士・税理士)
採石業・砂利採取業界では、後継者不足の問題を解消するためのM&Aが活発になると予測されます。M&Aでは、事業成長にかかる時間を短縮できるなどのメリットを得られます。採石業・砂利採取業のM&A動向やメリット、事例をくわしく解説します。
採石業の概要について解説していきます。
採石業とは、石材や骨材などを生産する産業を指しており、骨材を供給している砂利採取業も含まれます。
さらに採石業の業態として、採石法の規制のもとで石材採取業、砕骨材採取業、工業用原料採取業に分類されています。
なお、採石法は採石業者の地位を保護することを目的に、採石権を確定させる法律でした。
その後、経済成長が進み、採石業者の乱立や採石現場の環境破壊などが問題となり、改正が行われ、採石業者登録制度や採取計画の認可制度などが義務付けられ、監督権限も国から都道府県県知事に移譲され、現在の制度となっています。
鉱業や採石業、砂利採取業と他産業との関係について、日本標準産業分類[1]を用いながら解説します。
鉱石から含有する金属を抽出するための製錬及び精製、また、石炭からのコークス製造及びコークスの副産物の製造、天然ガスを導管により供給する事業所は製造業に分類されています。
そのほか、石油の精製や掘採された岩石の破砕、粉砕、一定の大きさの石に切る事業者も製造業に分類されています。
一方、石炭からガスを製造や天然ガスを導管により供給する事業所は電気・ガス・熱供給・水道業に、碑石、墓石の彫刻や仕上げを行い小売する事業所は卸売業、小売業に分類されています。
採石業は土木建築や工業用などに用途がある重要な地下資源の岩石が活用されており、砕石は道路舗装の路盤やアスファルト混合物、コンクリートなど土木建設工事の影響を受けやすいという特徴があります。
直近の市場動向は、資源エネルギー庁[2]によると令和2年の採石事業者は2,161件となっており、前年比でマイナス1.2%となっています。それに伴い、採取場数も前年比でマイナス1.2%の2,691件となっています。
採石業者の業務の状況に関する報告書の集計結果(資源エネルギー庁)を参考に弊社作成
また、岩石生産量は179,604千トンとなっており、前年からマイナス7.0%となっています。
直近期において業界全体としてマイナス傾向となっています。
採石業者の業務の状況に関する報告書の集計結果(資源エネルギー庁)を参考に弊社作成
上述の通り、砕石はコンクリートなど土木建設工事の動向に左右されます。
そのため、土木建設工事の件数が影響を受けるという課題があります。
東京オリンピック前はオリンピック特需と呼ばれる工事ラッシュがありましたが、東京オリンピック終了後は土木業界の受注数は減少しており、その影響も受け、減少傾向となっています。
また、このような状況下で砕石業者は減少していますが、砕石の安定供給ができなくなると土木建設が進めることができないことや大規模災害時等の迅速な復旧ができないため、砕石業者は不可欠な存在です。
業界再編などが進み、業者は減少するかもしれませんが、業種としては残っていくと考えられます。
[1] 大分類Cー鉱業、採石業、砂利採取業(日本標準産業分類)
[2] 4.資料編(採石業者の業務の状況に関する報告書の集計結果)(資源エネルギー庁)
採石会社や砂利採取会社がM&Aを行うメリットについて解説していきます。
売り手側のメリットとしては、主に投資資本の回収ができること、後継者問題の解決、従業員や取引先の関係を守れることがあげられます。
売り手側は株式を譲渡することで投資資金を回収できます。事業を継続していれば長い期間をかけて回収することになりますが、株式を譲渡すればその時点で回収ができ、短期間で回収できます。
そして、株式を譲渡することで多額の現金も手に入れられます。
また、ここ最近では後継者が問題になることが多いですが、M&Aを行うことでこの問題を解決できます。
後継者がいなければ、後継者を育てる、あるいは、探すことになり、時間がかかります。
M&Aは株式を譲渡するとともに、経営者を派遣などしてもらうことで後継者問題を解決してくれます。
会社を廃業してしまうと従業員は解雇され、取引先は取引がなくなることになりますが、M&Aを行うことで取引が継続することになり、従業員も継続して雇用されることで守られます。
これも売り手側にとってのメリットとなります。
買い手側のメリットとしては、主には事業成長にかかる時間の短縮化、事業の多角化、既存事業とのシナジー効果があげられます。
新たに事業を立ち上げるには、時間がかかることや経営資源を投じる必要がありますが、事業が出来上がっている会社を買収することで時間の短縮化などが可能になります。出来上がっているので失敗する可能性も低く、リスクも下げられます。
これまでとは違った事業を取り込むことで事業の多角化が可能になります。
事業を広げることはなかなか難しいですが、事業を営んでいる会社を買ってくることで事業を広げられます。事業の多角化を進めることでリスク分散ができます。
また、さらには既存事業とのシナジー効果が見込むこともできます。
同じ事業であれば、販路の活用、生産設備の活用、人材の交流などを行うことができます。
異なる事業でもこれまで得た知見やノウハウが役立つことがあります。
採石業のM&A動向について解説していきます。
採石業ですが、上述の通り、砕石業者は減少傾向となっており、廃業も他の業種と同等の2〜3%[3]となっています。
また、現在経営者の高齢化は進んでおり、後継者問題が顕在化しており、砕石業者においても同じ波が来ると見込まれます。
これらの状況を考慮すると、今後採石業も後継者問題が進み、後継者問題を解決するため、M&Aは増加していくと推測されます。
また、後述する事例から見ると経営環境の悪化に伴い、事業再編が行われているという特徴があります。
今後、後継者問題の解決のためのM&Aや事業再編に伴うM&Aが増加していくことが見込まれます。
採石業・砂利採取業のM&Aについて事例を紹介します。
住石ホールディングス[4]:石炭の仕入れ及び販売等を行なうグループ会社の経営計画・管理並びにそれらに付帯する業務
譲受企業[5]の意向により、非公表。
山陽採石の持続的な成長と住石ホールディングスグループの今後の事業展開を総合的に勘案して、地場企業との協議の結果、譲渡が決定。
神鳳興業[6]:採石事業
上武:採石事業およびマテリアルリサイクル(廃棄物中間処理)事業
上武の採石事業の拡大及び業績の安定化を目指し、新たな資源確保と生産拠点を得ることを目的に実施
郷鉄工所[7]:産業機械製造等
姥懐山開発[8]:採石業
採石料の収入に加え、協議次第で砕石用のプラント販売による売上も見込めるため、実施
相鉄鉱業[9]:砂利類の採取請負並びに生産、販売
松上産業:骨材の生産販売
神奈川県内の砂利事業について、建築・土木工事の減少や製品の輸送に関する環境の変化等により需要が下がり、過去数年赤字が継続しており、また生産に必要な重機やプラントが老朽化し、更新には多額の投資が必要であることなどを考慮して譲渡を実施
北栄[10]:海砂利採取業等
イメージ情報開発[11]:ITソリューション事業、メディカル&アンチエイジング事業、地域貢献型コンサルティング事業
北栄の海砂利採取事業の効率的に行うため、イメージ情報開発に経営コンサルタント依頼が来るとともに資金の一部を調達が必要な状況であったことから、株式の取得を実施
[4] 会社概要(住石ホールディングス)
[5] 連結子会社の異動に関するお知らせ(住石ホールディングス)
[6] 連結子会社における事業譲受に関するお知らせ(朝日工業)
[7] 郷鉄工所(東京商工サーチ)
[8] 固定資産の取得に関するお知らせ(郷鉄工所)
[9] 子会社の株式譲渡及び特別損失計上に関するお知らせ(相鉄ホールディングス)
[10] 北栄の株式の取得に関するお知らせ(イメージ情報開発)
[11] 事業紹介(イメージ情報開発)
ここまで採石業界のM&Aの動向についてみてきましたが、いかがでしょうか。
他業界と同様、後継者問題の解決のためのM&Aや経営環境の悪化から事業再編などが起こりやすい業界といえるでしょう。
今後、売り手側にとっても買い手側にとっても事業の発展のために、M&Aがますます一般化が進むことが考えられます。
それぞれのメリットなどを考えながら、効果的に進めていきましょう。
(執筆者:公認会計士・税理士 河野 雅人 大手監査法人勤務後、独立。新宿区神楽坂駅近くに事務所を構え、高品質・低価格のサービスを提供している。主に中小企業、個人事業主を中心に会計、税務の面から支援している)