事業承継・M&Aプラットフォーム M&Aサクシード

JPX 東証上場

当社はビジョナル(東証上場)
のグループ会社です

写真館と予約の取れない小規模旅館のM&A そこにはコロナを乗り越えるシナジーがあった【M&A事例】

  • 譲渡
    企業:桐のかほり 咲楽
    事業概要:高級温泉旅館(4室定員9名)を運営
    本社所在地:静岡県
    従業員数:6名
    譲渡理由:後継者不在のため
    事業譲渡
    譲り受け
    企業:株式会社小野写真館
    事業概要:フォトスタジオ事業、ブライダル事業、成人振袖事業などを運営
    本社所在地:茨城県
    譲り受け理由:事業拡大のため
    従業者数:170名
  • 婚礼
  • 旅館
  • 写真
  • 茨城県
  • 静岡県

茨城県の株式会社小野写真館は、事業の核となるフォトスタジオから始まり、結婚式場運営のブライダル事業などで順調に業績を拡大してきました。しかしそこにコロナが襲い、会社の未来を再検討することを迫られます。その可能性のひとつとして選んだのがM&Aでした。M&Aサクシードを通じて小野写真館が出会ったのが、静岡・伊豆で予約の取れない旅館として有名な「桐のかほり 咲楽」(以下、咲楽)です。部屋数は何と4つ。全く異なる業種、しかも旅館経営の経験のない小野写真館ですが、この小規模の旅館に「サービス業」という共通点を見出したことで、事業譲渡による思いもよらぬシナジー効果を期待できる未来が開けたのです。(2020年12月公開)

M&Aプラットフォーム 「M&Aサクシード」の魅力は圧倒的なスピード感

――今回、小野さんがM&Aサクシードを利用された経緯、使ってみての感想をお聞かせください。

小野 3〜4社のM&Aプラットフォームに登録していましたが、M&Aサクシードで成約にいたった最大の理由は「スピード感」です。アプローチするとすぐに返信が来ました。情報の多さも可能性を広げてくれたように思います。コロナ禍のなかM&A仲介会社とズームで面談を行い、1〜2週間後の7月上旬には現地で咲楽オーナーの萩原さんとお会いすることができました。締結が10月ですので3ヶ月もかかっていません。M&A仲介会社に依頼すると、仲介手数料がミニマムで2千万円くらいかかることもあるそうですが、中小企業にとっては大きな金額です。M&AプラットフォームであるM&Aサクシードを利用したおかげで、手数料もリーズナブルに収められました。

 

――小野さんは「(M&Aにおいて)今回初めて私から連絡を取りました」とお話しされています。その理由や思いをお聞かせください。

小野 M&Aプラットフォームに登録していると黙っていても案件の連絡は来るのですが、今回は自分からメッセージをするべきだと思いました。旅館を経営したこともないし、何らかの根拠があったわけではありません。しかしここで連絡しなかったら一生後悔すると直感したのです。

 

――萩原さんは小野さんとお会いしてどんな印象を持たれましたか。

萩原 7月10日に小野さんが直接お越しになられました。宿を内覧いただいた翌日すぐに、熱いメールをいただきました。非常に気に入っていただいたことを実感しました。

7月の時点で3社とお話をさせていただいていました。皆さんに宿を引き継いだ後の活用方法をお聞きしました。やはりその点は心配だったからです。1社はある大企業でしたが、コロナ時代のテレワーク利用というお話でした。もう1社は伊豆半島を含め全国で数件の旅館経営をされていました。旅館経営について非常に慣れているし、熟練されています。心配なく引き渡しができる、安心感のある企業でした。そして最後の1社が小野写真館でした。

 

旅館をなぜ写真館に譲渡したのか?

――なぜ譲渡先に旅館経営で実績のある会社ではなく写真館を選ばれたのでしょうか。

萩原 小野写真館以外の会社は部屋数4室という規模の小ささをネックに感じられていました。一方、小野さんは「4室だからいい」とおっしゃってくれました。そこに惹かれただけでなく、「温泉旅館の経営」プラス「これまでの写真の技術やブライダルのおもてなし」との間で相乗効果を創り出す新しいビジネスを展開したいということに、「これは今までにない咲楽の利用方法だな」と非常に興味を持ちました。

小野写真館の企業理念は「笑顔、幸せ、感動」です。私どもが最も大切にしているのは「お客様に感動を与えること」です。非日常的なしつらえや空間のなかで、お客様にわれわれのおもてなしで感動していただく。そういう意味では小野写真館と咲楽はお客様に感動を与える事業という点で一致していると思ったわけです。そして、何よりも小野社長様の新たな挑戦に心を打たれると同時に、より咲楽を活かして発展させていただけるのではないかと期待したからであります。

 

――今回のM&Aを振り返って、小野さんが印象に残っていることを教えてください。

小野 旅館へは小道を入り、坂を上っていく道のりがあります。坂を上り切って咲楽を眼前にした時に突然、気持ちが変化したのです。挨拶の後、施設を全て見させていただきました。その時心からこの場所に感動している自分に気づきました。ビジネスとしてM&Aの交渉に来ているのに、旅館を経営したことはないのに、心の底から咲楽に関わりたいと思ったのです。この時の気持ちは今でも忘れられません。

 

 

――サービス業という意味では旅館業も写真館やブライダルも同じです。

小野 小野写真館での結婚式や成人式、写真撮影は、形としての式が目的ではありません。私たちが提供するのはお客様に感動を体験していただく点にあります。旅館も時間、美味しいご飯、温泉などを通じて素晴らしい感動体験を提供しています。事業譲渡にあたっては経営的なコストの問題や解決すべき課題も相当ありました。しかしそれらを乗り超えてでも実現させたいという、ビジネスと個人的な感動が全て一致したのです。

 

息子に事業を承継できない・・・家族運営による旅館業の難しさ

――萩原さんは15年前に伊豆で旅館を始めました。

萩原 一般的な企業だと何をやろう、どこでやろう、どういうコンセプトでやろうという順序で事業を組み立てていくと思います。私どもは伊豆の土着民です。ここで生まれここで育ちました。この土地をどうやって次の代に引き継ぐのかという観点からこの仕事を選んだわけです。非常に狭い範囲での選択です。そのなかで旅館業しかないと決め2006年に咲楽を始めました。当時、私は55歳でした。10年間頑張って、その後は息子に譲って後方支援に回ろうと考えていました。旅館業というのは一代ではなかなか成り立ちません。後継者がいないと続けられない業態なのです。

 

――後継者と期待していた息子さんとはどのような話をされたのでしょうか。

萩原 二人の息子のうち次男夫婦と同居していましたので、65歳を過ぎたあたりから後を譲りたいという話を続けて来ました。そこで異変が起こります。私世代ですと、長男は家を取ることが常識でした。家業を取るかは別としても引き継いで家は取るものだったのです。萩原家は元々農家の家系で私は8代目になります。私の代から旅館業に携わることになりました。息子はともにサラリーマンですが、当然9代目を引き継ぐものと考えていました。しかし今の人は家を取るか家庭を取るかとなると躊躇なく家庭や子供を取ります。旅館業という業態において一番のネックは、一般の方が休みの時に仕事があることです。子供との時間を持てないのです。私自身の経験からも自分の子供には同じ思いをさせたくないという反省もありました。

 

――ライフスタイルの変化が家や家業の継承も変えたのですね。

萩原 話し合いを続けていくうちに、息子たちに考えを改めてもらうのは無理だと諦めました。別の方策として孫に夢を託すことを考え、一定期間、宿をお休みしようという案が浮かびました。リピートしていただいているお客様に「歳を取ったので一時お休みをしようかと考えています」とお話ししたところ、「とんでもない、われわれはこれからどこへ行けばいいんだ」とお叱りを受けました。自分たちだけの考え方ではうまくいかないなとつくづく考えさせられたわけです。どうしたものかなとかなり時間をかけて考えました。第三者として咲楽を引き継いでいただける方がいらっしゃれば、ぜひお譲りしたいという気持ちが芽生えました。そして昨年3月ごろに決断し、商工会議所や金融機関、M&Aの仲介会社などにお話をさせていただきました。

旅館業を営むなかで、集客のためには予約サイトなど間口が広ければ広い方がいいことを学びました。そこで事業譲渡にあたっても、金融機関2社、商工会議所、M&A仲介会社1社と、複数の皆様に相談をお願いしました。その結果、M&A仲介会社がM&Aサクシード経由で小野写真館を紹介してくださったのですが、非常にラッキーだったと感じています。身内でない第三者に事業譲渡することを恥だと思う方がいらっしゃるかもしれません。しかし今回のやりとりで感じたのは、幅広い選択肢が最良の結果を導くということでした。

 

ウィズコロナの時代、異業種とのシナジー効果が新たな市場を生む

――小野さんはなぜ旅館業を自分たちの事業の一部に取り入れようと考えたのでしょうか。

小野 もともと宿泊事業には興味がありました。ただ実際に決断できたのは、コロナによって、小野写真館の未来をどうしようかということを考えざるを得ない状況になったからです。

人がたくさん集まる結婚式という事業はコロナ禍で大きな問題になりました。うちは披露宴会場を3つも持っていますので、相当の影響を受けました。コロナは自分では変えられない。かといってコロナのせいで会社が赤字になる、倒産するという事態は避けなければならない。経営者として大きな責任が私にはあります。その状況を踏まえて小野写真館のポートフォリオを全部作り直そうと思ったのです。そうしないと結婚式が元に戻らない限り、かつての安定した経営状態が戻ることはありません。新たなポートフォリオを描いている時、伊豆の河津という名勝地にある4部屋しかない旅館は、ウィズコロナの時代に非常に価値が出るだろうと考えました。これはチャンスなのではないかとひらめいたのです。

 

――コロナ禍におけるチャンスとは何なのでしょうか?

小野 萩原さんのような方が運営されている旅館は日本各地にたくさんあります。個人経営の旅館を企業として上手に運営できるビジネスモデルを確立できれば、新たな市場を開拓することができます。

家族に後継者がいなくて困っている旅館もあれば、逆に積極的に経営に関わりたい人もいます。企業が旅館を経営するならば、例えば給与や法的な問題など最低限の保証をつけることができます。新しい旅館の形を導き出せるはずです。

 

 

――写真館と旅館、そのシナジー効果をどのように描いていますか。

小野 予約が取れない高級旅館のクオリティを保つことは大前提です。それに加えて相乗効果を出さなければなりません。咲楽の強みは4部屋しかない点にあります。最大で8〜9名しか泊まれない宿であることをメリットと考えるべきです。例えば特別な日に3世代の家族だけが泊まれる貸切の需要を作ることができます。咲楽にはガーデンもあって椅子を置けばいつでも結婚式を催せます。その他に、還暦祝いや誕生日のお祝いもできるでしょう。

旅館の目の前は海です。夜は美味しいご飯と温泉。そこにフォトグラファーがつけば写真としてすべてを残せます。私たちのビジネス拠点は約20箇所ありますので、お祝いの宿泊プランを代理店として販売することもできるでしょう。私は小野写真館の現業務と旅館をかけあわせることで、“祝いのアップデート”を実現させたいのです。

この地は2月から3月にかけて咲く河津桜が有名です。河津は拠点を持つことは難しいエリアです。しかし咲楽を所有したことで、伊豆半島でのフォトロケーションビジネスを展開できるようになります。ここをウェディングフォトのメッカにできると信じています。

 

 

――小野写真館はこれまで、新規事業を立ち上げていくことによって成長してきました。今後もその方針を継続していくのでしょうか。

小野 私たちの中核ビジネスである写真とかけ合わさった時に新しい解が見つけられる事業を手がけたいと思っています。新規事業を構想する上で、M&A、自社内、出資など色々なパターンが想定できます。しかしどんな場合でも、私たちの絶対条件は「感動体験の創出」にあります。それが叶えられる条件を満たす事業であれば、前向きに検討していくつもりです。

小野写真館は社員一人ひとりの熱やモチベーションを大事にしてきたので、引き継ぐ先の会社で働いている方の人柄も大切にしたいと思います。今回、咲楽の従業員の方にお話を聞くと、オーナー夫妻を非常に尊敬されていることがわかりました。そして何よりも出会いやご縁を大切にしたいと思っています。

 

今は全てをリセットするタイミング。M&Aに大きな可能性が

――今旅館業は大変厳しい状況にあります。事業譲渡を考えられている同業の皆さんに萩原さんが伝えたいことは何でしょうか。

萩原 一口に旅館といってもいろいろな形態がありますし、時代背景にも左右されます。咲楽は部屋がそれぞれ完結型で、お食事処も別部屋に設けています。建築素材にはウィルスに強い自然素材を使っています。たまたまウィズコロナの時代に適応した施設になりました。そこに小さな規模の宿に価値を見出してくれた小野写真館が手を上げてくれたので、幸運な事業譲渡になったと思います。経営する旅館やホテル、宿泊施設がどのようなものに合うのか、事業譲渡先が本当に旅館経営をしたい方なのか、あるいは別の用途で使いたいのか。これから譲渡をお考えの皆さんも、自分の施設、旅館の強み、立地も含めて諸条件を考慮しながら再構築され、専門家にご相談されれば、必ずチャンスがあるはずです。

 

――経営者として小野さんはM&Aの可能性をどう考えていますか。

小野 今はすべての事業をリセットするタイミングです。あえて言うなら、今以上のチャンスは一生巡ってこないのではとも思います。コロナで世の中がどう変わるのかを念頭にM&Aを検討することが必要です。これまでの常識で進めるならばおそらく厳しい結果になるでしょう。新たな考え方を持って新しい事業と出会えるならば、既存産業では出てこないアイディアが生まれるのではないでしょうか。自分はチャレンジをし続けることで何とか生き残れて来ました。ここ1〜2年が全てを変え切るチャンスだと感じています。

※この成功事例の「その後」のストーリーはこちらから